小さき森を愛する花  瑠璃唐草物語

瑠璃唐草の別名はネモフィラ。ギリシャ語のNemophila は、ギリシャ語の 「nemos(小さな森) + phileo(愛する)」が 語源とされています。そんな愛らしくも健気な花のように生きていきたいと思います。

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その⑩

私は、家のお風呂にゆっくり浸かりながら、今日起こった

不思議な出来事を、考えていた。

 

一体、何が起こって、自分の感情や、体の制御が効かなくなって

しまったのだろうか・・・・と。

 

誰の説だったか忘れたが・・・。

 

汗の成分には、その人のDNA情報が含まれていて、相手のDNA情報を

知らず知らずのうちに、判断して、自分にとって敵なのか味方なのかを

判断できるのだとか・・・。

 

男女間で言うと、自分のDNAと、尤も遠い種類のDNA配列の人を、

好ましい相手と判断するらしい。

 

はて・・・・そういう理由で、震えと涙が出たんだろうか・・・?

 

だとしたら、有り得ないぐらい、離れた種類のDNA配列だったって

ことだよね~。

 

奴は、宇宙人か!? (爆)

 

当時の私は、まだツインソウルという概念を、知らなかった。

 

ただ、前世は信じており、おそらく前世でご縁があったから、こうして

出遭って、その前世を知っている「魂」が、泣いたのかも・・・という

結論に達したのだった。

 

ただ、そう考えても、まだ引っかかる何かが、残っている気がした。

 

前世だけだったのかな・・・・・。

 

何となく、今世でも、どこかで会った事があるような気がして、仕方なかった。

私は、過去の自分の記憶を、ゆっくりと辿ってみたものの、はっきりとした

記憶は、蘇って来なかったのだった。

 

 

こんな不思議な状態に、同時に陥ってしまうという、共通の体験をした

私達だったが、月曜日の、通常の業務に戻ると、何事も無かったかのように

お互い、振舞った。

だってね~、説明のつかない事象を共有したからって、急に距離が

縮まるという訳でも無いし・・・。

縮まりたくもないっていうのが本音。

(ただでさえ、距離感が近いんだもの!)

 

ただ、その現象のことは、何となく、お互い気にしている気配は

感じていた。

 

そんな気配を知ってか知らずか・・・。

 

二十代Mの、アピールが、日に日に、あざとくなっていった。

 

「ねえねえ、所長~~、明日、お休みじゃないですか~

どっか一緒に、出掛けましょうよぉ~。」

「え~、どっか行くって言ってもさ、俺、こっちの土地勘

殆ど無いんだぜ。」

「どっか楽しい場所とか、お勧めの所とかある?」

 

まんざらでも無さげに、答えるSに、Mは、ここぞとばかり

ちょっと遠方の場所を勧めてきた。

 

「隣の県になるんですけど~、吉野ケ里遺跡とかどうですか?

櫓とか、出土した古い時代の遺跡とか、展示してあって

公園にもなってるし・・・楽しいと思うんですよね~。」

 

このMの申し出に対するSの答えは、意外なものだった。

 

「あ、吉野ケ里ね・・・俺、昔、行った事あるわ。」

 

「え~~~っ、行ったことあるんですかぁ~。

土地勘無いって言ったじゃないですか~~~。

北関東に住んでたのに、何で、あんな田舎に行ったこと

あるんですか~?

まさか・・・・・彼女と旅行・・・・とか?」

 

ちょっと拗ねたような素振りで、口を尖らして尋ねるMに

 

「まあね・・・昔・・・ちょっと・・・。」

 

Sは、そう答えると、黙り込んだ。

 

Sの想定外な答えを聞いて、私の中で、何かが、弾けた気がした。

 

「昔って、どれぐらい昔なんですか?」

思わず、私は、そう尋ねていた。

 

「そうだな・・・二十歳の頃だったかな・・・。」

 

「随分前ですね・・・そう言えば、私も、一度だけ友達に誘われて

行ったことありましたわ。」

 

私の答えを聞いていたSは、急に

 

「他にさ、もっと楽しそうなとこ無いの?」と話題を変えた。

 

「え~~、じゃ、今日、カラオケいきましょうよ~。」

「一緒に歌いたいし・・・。」

 

「カラオケね~・・・考えとくわ。」

 

誇りを被った、セピア色のフィルムが、カラカラと音を立てて

回りだしたような、そんな感覚が、私の中に芽生えた。

 

 

 

やっぱり・・・出遭っていたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その⑨

Sが、私の質問に答えるべく、私のPCの側に寄って

来た時に、それは起きた。

 

 

相変わらず、パーソナルエリア、ガン無視で、顔を

横向けてしまえば、うっかり頭をぶつけてしまうぐらいの

距離感で、「え~っと、確か、シフトキーを押しながら、

これを押したら、出てくるんじゃなかったっけ・・・。」

 

そう言いながら、実際にキーを押すS。

 

私は、気付かれない程度に、体を反対側へずらした。

まだ若干、汗ばむ季節だったせいか、Sの体臭を

微かに感じてしまった。

 

普通、35過ぎると、男の人って、加齢臭が漂い始める

のがセオリーだと思うのだが・・・。

意外にも、Sの体臭が、十代から二十代にかけての

若い子独特の匂いがすることに、驚いた。

若いのは、見た目だけじゃなかったんだ・・・。

妙に感心する私。

 

アンチエイジングの秘訣は、やっぱり、女性遍歴の賜物

なんでしょうかね~。」

なんて、嫌味な事を、心の中で呟く私。

 

顕在意識の私は、Sの事を、どこか軽蔑し、冷ややかな目で

見ていたのだ。

 

それなのに・・・・それなのに・・・・。

 

どうして・・・。

 

一体、何が起きてしまったというのだろう・・・・。

 

 

Sが、近寄り、彼の体臭を、うっかり嗅いでしまった途端、

私の体は、急にガクガクと震えだしたではないか!

 

 

「えっ!?」

 

 

私は、自分の体に起こっている変化に、狼狽えた。

 

 

「何で・・・何で・・・何が起こったの!?」

 

 

震えは、止まるどころか、ますます激しくなり、

誤魔化す事すら、難しくなってきた。

 

「どしたの? 寒いんだったらクーラー止めても

いいんだけど?」

 

「いえ、大丈夫です。 風邪引いたのかもしれません。」

 

私は、やっとのことで、そう答えた。

 

Sは、訝し気に私の事を見たが、直ぐに、踵を返して、自分の

席へと戻って行った。

 

何が起こったか、混乱している私だったが、とにかく、この

震えを止めなければと、必死で、足を踏ん張り、入力を

続けようとした。

 

しかし、足に力は入らないわ、指は震えるわ、頭はパニックに

なるわと、もう、自分自身で制御ができない状態となってしまった。

 

とうとう、しまいには、悲しくも無いのに、涙が溢れて、声を押し殺して

号泣状態へと陥ってしまった。

 

その上、丹田の辺りから、何かが、渦を巻きながら、私の体を押し包む

ような気がしてきて、自分の意識が遠のくのでは・・・という

危機感に襲われた。

 

恐らく、後姿でも、ガクガク震えているのは、解ったのだろう。

Sが、また近づいてきた。

声を掛けようとしたようだったが、私が、声を出さずに

号泣しているのに気づいたのだろう。

 

そのまま、そっと、その場を離れ、自分の席へ戻ったようだった。

 

いきなり声を殺して号泣する、意味不明な、おばちゃんを見て、

さすがのSも、掛ける言葉がなかったのだろう・・・。

 

「俺、何か悪い事したか?」

 

彼は彼なりに、理由を探していたかも知れない。

 

やっとのことで、震えと号泣をナダメすかし、私は、PC

から離れて、自分の机に戻った。

 

 

すると、今度は、Sの様子が変だった。

 

 

自分の席に座ってはいたものの、彼は、酷く落ち着かない

様子で、ソワソワし、しきりに、臍の辺りを気にしていた。

 

やっと自分を取り戻した私は、「どうかしたんですか?」

と、今度はSに、尋ね返した。

 

「いや・・・・何でも・・・何でもないよ。」

「俺、そろそろ帰るわ・・・。」

 

「そ・・・そうですか、お疲れさまでした。」

私が、きちんと施錠して帰りますので・・・。」

 

「解った、じゃお願いするわ。」

 

そう言い残すと、Sは、上着を羽織り、早々に事務所を

立ち去った。

 

残された私は、「今起こった事」が、一体何だったのか?

少しばかり、気になりながらも、仕事を片付け、事務所を

閉めたのだった。

 

解っていたことは、あの号泣した感情が、決して私の顕在意識

ではないこと、だけだった。

 

 

そして、丹田の辺りから、渦のように出てきた状態と、

似た体験を既に、以前にも経験したことがあることを、思い出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その⑧

Sが、北関東営業所での引継ぎを終わらせ、正式に

福岡へと赴任してきた。

それまで福岡の所長だったYは、一端、Sの部下となり

係長職へと降格された。

 

どうやら、この人事は、Sを高く評価している統括部長の

差し金のようだった。

 

Yは、確かに、営業レディ達の人選を誤り、自分の手に負えない

とんでもない人たちを、入社させてしまっていた。

その結果、営業成績は上がらないのに、営業レディの待遇改善

ばかりを要求され、ポケットマネーから、費用を出す羽目に

陥っていたのだった。

 

多くの営業レディ達は、割に合わないからと、次々に辞めていったが

本当は、一番辞めて欲しい大ボスが、登社拒否したまま、席だけは

残っているという状態になっていた。

私も、この大ボスのお陰で、随分苦汁を舐めさせられたが、

所長も変わるという事で、改めて、その大ボスが、退職届を

持ってくることになった。

 

しかし、彼女は、新しい所長であるSを見た途端、退職を

撤回するなどど、言い出したのである!

 

まさか・・・・保険の営業で所長まで上り詰めた職歴のある、鬼のような

還暦大ボスまで、「例のフェロモン攻撃」で、撃墜されてしまった

のだろうか・・・。

 

しかし、Sは、彼女が福岡営業所で犯した様々な事件を把握

しており、冷静に、退職願を出すように促した。

 

「お~~S グッジョブ!」

 

思わず、この時ばかりは、私は、心の中で、Sの事を

応援した。

 

実は、これには、本社の意向が、随分と働いて居たらしい。

不満ばかりで、売り上げ0であるにも関わらず、大ボスの

反旗に乗って、規定以上の待遇を求めた、おばさん達を

雇うぐらいなら、何の色にも、固定観念にも染まっていない

新卒の子を雇う方が、上司もやり易いし、結果として数字が

付いてくる・・・・という考え方に纏まったらしいのだ。

 

それで、まずは、戦犯の大ボスと、病気で2か月以上、会社を

休んだ営業レディが、首切りの対象となったのだった。

それを見ていた、最年長のおばさんは、「次は私かしら?」

なんて慌てていたが・・・。

 

「大丈夫、真面目で、仕事熱心だったのは、Yさんも、私も

他の社員さんも知ってるから、全力で守って見せるわ。」と

私たちは、力強く、励ました。

 

幸い、最年長のおばさんは、着付けの免許も持ち、元々

裕福なお家の奥さんなので、そういう貫禄のある人が

一人くらいは居た方が、会社にとっても好都合ということで

首は免れた。

 

結局、古株の中で、新体制発足時に残ったのは、SとY、男性営業マン

年長のおばさん、二十歳のM、そして事務の私。

という何とも、寂しい結果となった。

 

しかし、春には、14名もの新人が入社してくる。

新体制発足の為か、別の営業所からも、新しい営業マンが

赴任することに決まった。

 

事務所の移転先選びも、そろそろ大詰めを迎えようとしていた。

 

そんな中、事務所の場所やら、広さやら、納入する事務機器やら

どうしても、Sと相談して決めて行かなけらば成らない事が

増えて行った。

 

通常の事務処理は、事務処理としてあるので、時折、私は

仕事を片付ける為に、土・日のうち、一日出社することが、多くなった。

まあ、がやがやしているよりは、一人で、自分のペースで

電話にも出ることなく、事務処理ができるのだから、

そっちの方が、効率が良かったのだ。

 

しかし、単身赴任して暇なのか、行く場所が無いのか、

大して用事も無いくせに、Sは、土日出社してくるように

なった。

 

「所長、せっかくの土日なんですから、天ブラ(天神をブラブラ)

するとか、月曜の為に英気を養うとか、なさったらいかがですか?」

 

私は、遠回しに、「邪魔」ってことを言いたかったのだが・・・。

 

「いや~家に居てもさ、何もすることないし、落ち着かないんだよね~。」

などど言って、全く私の意を介そうとはしなかった。(鈍感な奴め)

 

まさか、無言で、何時間もオフィスで仕事する訳にもいかず、

時々、世間話をしつつ、事務処理をするという形に、どうしても

なっていった。

当時、私は、恥ずかしながら、文書を打つことは出来たものの、

ワープロを多用していたために、PCには不慣れで、記号文字を

出すのに、どこのキーを押していいのか、度々迷うことがあった。

 

あまり聞きたくはないけれど、教えて貰わねば先に進まないので、

私は、Sに「すみませ~ん、〇〇記号文字って、どのキーを

押せば出てくるんでしょうか?」と大声で叫んだ。

 

私は、事務所の端っこに置いてあるPCの前に座っていたので

Sが、座っている所長席から、「何何のキー」って叫んで

貰えばよかったのだが・・・。

 

まあ、ご丁寧に、わざわざ私のPCの所まで来て、

「コレコレ、このキーと一緒にシフトキーを押して・・・」

と教えてくれたのだった。

相変わらず、あの距離感で・・・。 (はぁ・・・・)

 

さすがに、この距離感にも、すっかり慣れていた筈だった。

 

しかし、次の瞬間、私に思いもよらない事が起こったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その⑦

Sが、本来の事務所へと戻り、私と、年長のおばさんは、

心底、ほっとしていた。

 

私達二人の結論としては、もう二十代のMさんが、陥落

するのは時間の問題だろう・・・と。

 

何せ、ご本人のMさんの方が、ご執心なのだから・・・。

いくらS氏の好みでないにせよ、何時までも、据え膳放置は

しないと、私たちは踏んでいたのだ。

 

酸いも甘いも噛分ける年代の、おばちゃん二人の、今後の作戦

としては、最悪Mちゃんを防波堤にして、新人の女性達に

魔の手が及ばぬように、目配りをしていくことで、淑女同盟は

再び、結ばれた。(あら、Sが居なくなった途端、正気に帰れたのね)

 

よく、フェロモンが・・・なんてことを世間で、いわれるけれど・・・。

それって、主に、セクシーな、お色気漂う女性に限定して使われる

言葉だとばかり、私は思っていた。

 

私は、男性に、そんなものがあると感じたことは無かったし、

男性の場合は、単なる比喩で、使われているに過ぎないと確信していた。

しかし、Sが居なくなると、急に、正気に戻った年長のおばさん。

そして、男性には、殊更、冷徹な私が「やれやれ」と胸を

撫でおろしているということは、やっぱり目には見えないが、

強力なフェロモンもどきが、Sから漂っていたのかも知れない。 

 

これは、気を付けなくては・・・。

 

Sは、それを知ってか知らずか、女性との距離の取り方が、異様に

近いのだ。

その距離は、他人から見たら、所謂「恋人ゾーン」と思われても

仕方ない距離感で、それを、どんな女性に対しても、繰り出して

くるのだ。

なので、彼の本性を知らない人には、うっかり「私に気があるのでは?」

と勘違いさせてしまうのだ。

 

 

 

私は、元々、他人に接近されると、圧迫感を感じるタイプ

なので、相手に気づかれないように、そ~っと静かに、距離を

取るようにしていた。

 

しかし、この作戦が、Sには、全く通じない!

そ~っと離れたとしても、離れた分だけ、詰められてしまう。

Sにとっては、その距離感が普通で、それ以上離れることは

返って、不自然なのだと言わんばかりに・・・。

 

一度、展示会の狭いお帳場で、逃げ場が無いのに、詰められた

事があり、思わず、私は、嫌な顔をしてしまった。

しかし、向こうは意に介せず、売り上げの途中経過報告を

私に確認して、計算機を叩いていた。

 

まさに、そんな時に、ベンダーさんの一人である女性が

暖簾を挙げて入って来たのだ!

勿論、その女性は、一瞬、表情が強張り、見てはいけないものを

見てしまったかのように、固まった。

そして、「失礼しました・・・。」と言って、暖簾を下げようと

していた。

 

「あ~大丈夫ですよ~。」

「売り上げの報告だけなので、どうぞ・・・。

何かご用事があったのでしょう?」

そう私は、彼女に対して声を掛けたのだが、彼女は、

「いえ、今、お取込み中みたいなので・・・あとで伺います。」

と言って去っていってしまったのだ。

 

「オ~マィ~ガ~~~~~!」

絶対勘違いされている~~~~~~~。

 

そのベンダーさんも、恐らくSのパーソナルエリア攻撃を受けて

「気があるのかも」♪って勘違いしていた一人かも知れない。

 

こりゃ、厄介だわ・・・。

 

私は、フェロモン対策として、実に滑稽で、到底効果があるとは

思えない対策を取ることにした。

しかし、これが、以外にも、思わぬ効果が有ることに、後々

気付くことになる。

 

当時は気づかなかったが、この方法も、実は、ツインソウル

ならではの間柄だからこそ、出来た方法なのかもしれなかった。

 

 

 

(今日のまとめ)

 

 

パーソナルスペースの分類

密接距離ごく親しい人に許される空間。

近接相(0〜15cm)
抱きしめられる距離。
遠方相(15〜45cm)
頭や腰、脚が簡単に触れ合うことはないが、手で相手に触れるくらいの距離。

 

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   ☝

若かりし頃のマイケルジェイフォックス

 

ファッションといい、雰囲気がSそっくりです。

 

で、こんな風な感じ。

 

    ☟

 

 


Gazebo - I Like Chopin - Audio Remastered ( Official Video )

 

youtu.be

 

 

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その⑥

住むところが決まるまで、Sは、事務所近くのビジネスホテルを

定宿にしていた。

福岡で暮らすためのアパート探しをしつつ、それと並行して

事務所の移転先をも、探すようにと、私に依頼してきた。

 

「S所長、本気ですか?事務所移転するなんて・・・。」

「ああ、本気だよ。」

「まだ、この事務所に移転して半年も経っていないんですよ!」

 

「だってさ、考えてご覧よ、来年の4月には、新入生が男女7人

づつ、合計14名も入ってくるんだぜ~。このまま、この狭い

事務所じゃ、身動きもできんだろうし・・・。」

 

「でも・・・この事務所を借りるに当たって、少なくとも

一年以上は借りるという契約を結んでいます。約定違反に

問われると思いますけど・・・。」

「別に、いいじゃないか、約束なんて、破るためにあるんだからさ・・・。」

 

どこまで本気で言っているのか、解らなかったが、取りあえず、

Sの指示通り、不動産屋に、お勧めの物件をファックスで

流してもらうことにした。

 

Sは、流してもらったファックスを見比べながら、あ~でもない

こ~でもないとチェックを入れていた。

 

「あの~、非情に伺いにくいんですけど・・・・。」

 

「何?」

 

「事務所の移転先って、ここから、そう遠くない場所を考えて

いらっしゃいますか?」

 

「いや、特に拘りは無いけど・・・。」

「天神でもいいし、博多駅周辺でもいいしさ・・・。」

「やっぱり、福岡と言えば、一番の繁華街は天神なんだろ?

いっそ天神に出ちゃうか~。」

 

「あ~そうなんですね・・・。」

 

「何、何か、不都合でもある訳?」

 

「いえ、天神でも、博多駅でも構いませんけど・・・・

出来れば、地下鉄駅から徒歩10分以内の場所に

して頂けると、有難いんですが・・・・。」

 

「何で?」

 

「私、地下鉄で通っているんですけど、今の事務所よりも

遠くなるようですと、通勤が厳しいので・・・。」

 

「あ・・・そうなんだ。いいよ、瑠璃さんの通える範囲内で

最終的に選べばいいんだろ?」

 

「はい、そうして頂けると助かります。」

 

まだ、表面上は、「話の分かる上司」と「従順な事務方」として

平穏な会話が続いていた。

 

しかし、こんな平和も、そう長くは続かないのだった。

 

唯一、二十代のMさんは、何かと口実を見つけては、Sを

誘い出し、昼も、夜も、食事や、飲み会に引っ張りだそうと

腐心していた。

 

普段のSであれば、とっくの昔に、Mさんと「深い仲」に

なっていても、不思議ではなかったのだが・・・。

 

「皆さんに、公平に接してくださいね・・・誰か一人に

肩入れすることのないように、お願い致します。」

 

という、私の遠回しな「念押し」の効果が、まだ

賞味期限切れになっていないのか、まだMさんは

現地妻の座を、手に入れることはできていないようだった。

 

私が、Sの事情に詳しいことを、彼は、察していたのかも

知れない。

大人しいように見えて、怒らせれば、本社の人間に、彼の悪行を

ご注進するという「禁じ手」を、いともあっさりと、打ってしまい

そうな不気味な、凄みを感じ取っていたに違いない。

 

 (はい、正解! 怒らせると怖いんですよ~)

 

Mさんだけでなく、最年長のおばさんも、その他のおばさま方も

いつの間にか、Sの魔力の前に、「しおらしい乙女」と

化していた。

中には、自分の成人式の写真をわざわざ持ってきて、見て貰おう

とする人とかね・・・・。

いや、どうする・・・それを見せて・・・。(過去の栄光なんて)

 

Sが、興味あるのは、現在進行形の、うら若き乙女だけだよ~。

 

そんな女性たちのキャピキャピした言動を、冷ややかに見つめながら

Sの本当の正体を知っている私だけは、その手になんか乗せられないわ

と、高を括っていた。

 

しかし、そんな冷酷で斜に構えた私ですら、うっかり「手の内」

に落ちてしまいそうな事が起こった。

 

「事」というには、単純過ぎたかもしれない。

 

ある日、普通に事務処理をしている時のことだった。

Sは、不意に、何の前触れもなく、小声で呟いたのだ。

そう、すぐ隣に座っている私に、聞こえるか聞こえないかの

微かな声で・・・。

 

その呟きは、5・7・5・7・7の短歌だった。

 

瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の


割れても末に あはむとぞ思ふ

 

これは、百人一首の中でも、情熱的な一句として

知られる崇徳院の歌である。

 

何の脈絡も無く、いきなり、そのフレーズを口にした

Sに、私は、不覚にも、「ドキッ」としてしまった。

 

実は、この句は、私が、一番好きな一句だったのだ。

しかし、私は、その事を今まで、誰にも言ったことが無い。

 

まして、何で、このタイミングで、呟いたんだ!?

 

どこで知った!

何をリサーチした?

 

私の脳は、フル回転していた。

「あ・・・もしや、履歴書を見たのか・・・。」

 

私の脳で、合理的に考えられるのは、その事だけだった。

勿論、履歴書なので、「私の好きな一句」なんて

書いている訳でもない。

 

恐らくSは、私が国文科出身であることを知って、

この作戦に打って出たに違いない!

 

「ん~ああああ~~~悔しいが・・・ビンゴ!」

 

座右の銘ならぬ、その一句が、私の人生の友だったわ!

 

もし、私が、二十歳そこその小娘だったら、この一件で、

陥落していたかも知れない。

(あら、以外に簡単なのね・・・言葉フェチの弱点)

 

良かったよ・・・伊達に歳だけを重ねたオバちゃん

じゃなくて・・・。

 

今までの、度重なるセクハラ・パワハラモラハラ

揉まれて強く、逞しい、おばはんへと成長を遂げていた

私は、崖っぷちで、ぐっと踏ん張ることが出来た。

 

しかし、油断ならんな・・・。

 

「え・・・今、何って、仰いました?」と切り返した私に

 

「いや・・・別に・・。」

「二度も、同じことは言わないよ・・・。」と

 

不敵な笑みを浮かべるとは・・・・。

 

恐るべしS。

 

女の弱点を鋭く見抜くSと、冷淡な策士の私の

静かな戦いは、まだ始まったばかりだ。

 

しかし、不味いな・・・このままでは、私だって、うっかり

「乙女なおばはん」へと凋落されてしまうかもしれない。

何とか対策を立てねば・・・・。

 

そう思案していた時、急にSが、

「俺、一旦、家へ帰るわ・・・。」と言い出した。

 

そう、彼は、福岡への正式な辞令が降りる前に、

事前に上司から知らされて、思い付たように来福したに

過ぎなかったのだ。

 

Sの正式な勤務先は、まだ北関東の某県であり、そこの

所長として「席」は残ったままになっていたらしい。

 

余りの事に呆れたが・・・。

しかし、内心、ほっとした私。

これで、対策を練る時間が稼げる・・・。

 

後日談だが・・・。

北関東の某県の事務所を、ほっぽらかし、福岡に

一週間も行ったきりになっていた所長に、向こうの

事務方の女性は、怒り心頭だったらしい。

 

そりゃ、そうだわ・・・。

 

思いついたら、即、行動。

仕事も、女もね・・・。

 

そんなSに、私達福岡の面々も、右往左往させられて

いくのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ここでちょっと・・・Have a break!


薬師丸ひろ子 メイン・テーマ

 

 

はぁ・・・・・癒される~。♡

 

 

私の、鼻歌のオハコだった、薬師丸さんの歌の中でも

何故か、最近、この歌ばかりが、頭の中をグルグル回っていました。

 

久々に、昔の歌声を聞いたら、やっぱり素敵!

 

贅沢な時代でしたわ~。

 

リアルタイムで、彼女の美しい声を聴けて・・・・。

 

 

まだまだ、ツインソウルの悪行三昧のストーリーを

書き連ねて行かねばなりませんが・・・。

それは、あくまでも「サブテーマ」であって、

 

「メインテーマ」じゃありません。

 

しかし、メインテーマに辿り着くまでには、サブテーマの

階段を、一段一段登らない訳には行かなくて・・・。

 

でも、疲れますわね・・・。

もう、ひと昔以上も前の事だというのに・・・。

 

なので、ちょっと、ここで休憩。

 

薬師丸さんの、心に響く歌声で、心洗われて・・・。

 

また、ハードコアな生き方の、ツインソウルの話を

 

書かせて頂こうと思います。

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その⑤

Sの恐ろしい能力の、片鱗を見た私は、最年長のオバサンさんと

Sの対策本部を、こっそり立ち上げることにした。

 

「不味いわよね・・・このままだと・・・。」

「どうやら単身赴任になるみたいよ・・・。」

 

「うわ~お目付け役、来ないのね~。」

「奥さん、心配じゃないのかしら?」

「むしろ、自分の目の前で浮気を見たくないってタイプ

なのかしら?」

 

「いやいや、それにしたって、初めての単身赴任で

しかも九州なんだから、一度くらい様子を見に来て、

準備ぐらいやるでしょうに・・・。」

 

しかし、Sの奥さんは、Sの単身赴任の支度はおろか、

その費用すら、ロクに彼に渡していないようだった。

 

「どうしょうかな・・・冷蔵庫、洗濯機にレンジぐらいは

最低でも用意しないと、ダメだよなぁ~。」

 

そんなSの独り言に、早くも反応し、そそくさと世話を

焼きたがる、現地妻候補が、早くも現れていた。

「あ~、私、一人暮らししていた時のレンジとか

ありますけど、良かったら、使います~?♡」

 

「あ~ほんとに?助かるわ~。」

「あと冷蔵庫と洗濯機だな・・・瑠璃さん、安い電気屋知ってる?」

「そうですね・・・このご近所だと●●電器さんが、安い量販店なので

色々種類があると思いますけど・・・。」

 

そんな会話をしながら、年長のおばさんとの極秘対策本部では

ひっそりと、議論が進んでいた。

 

「やっぱり不味いわよ~、もうMちゃん、完全メロメロよね?」

「4月には、新人の女の子が7人も入ってくるっていうのに

所内に、不倫の空気が漂うのは、御免被りたいわ・・・。」

 

「私達、おばちゃんなら、そういう対象にもならないし、

噂にもならないから、一応、単身赴任の準備ぐらいは

一緒に、してあげようか?」

「Mちゃんに任せたら、ほぼ一月で、アウトだと思うわよ。」

 

私達、おばちゃんチームは、何とかSの女性遍歴ライフワークを

所内で発動させないように、最新の注意を払うことにした。

 

しかし、年長のおばちゃんが、何を思ったか突然、

 

「私さ、やっぱり、単身赴任の手伝い辞めるわ~

何か起こったって、もういい、高見の見物させてもらうわ~。」

と、まさかの手のひら返し。

 

「それはないでしょ~~~。」

「知らんよ~、ここで危ない芽は摘んでおかないと、後々

大変な思いをすることになるわよ~。」

 

そう、説得してはみたのだが、最年長のおばちゃんは、頑として

考えを変えることはなかった。

今から思えば、この最年長のおばちゃんも、既にSの魔力に

取りつかれてしまっていたのかも、しれなかった。

 

そして、私の予言どおりに、大変な事態へと発展していく

のである。

 

「だから、言ったじゃないの!」

 

そんな言葉が、私の口から出るのは、そう遠い未来ではなかったのだ。