小さき森を愛する花  瑠璃唐草物語

瑠璃唐草の別名はネモフィラ。ギリシャ語のNemophila は、ギリシャ語の 「nemos(小さな森) + phileo(愛する)」が 語源とされています。そんな愛らしくも健気な花のように生きていきたいと思います。

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㉛

Mのあまりに、あざとい「愛人アピール」が、効きすぎたのか

Sが、新人女性達と、必要以上に親しくなれない雰囲気が

生まれつつあった。

 

まあ、大人チームとしては、変に、新人女性に手を出されて

ゴタゴタするよりは、多少目には余っても、Mが防波堤に

なってくれるのであれば、もう、致し方ない事として

目を瞑ろうと、考えるようになっていた。

 

しかし、それでは、Sの狩猟本能が満たされなかったらしい。

 

なにかとMの目を盗んでは、信販の美人派遣社員さんを

口説き落しにかかっていたのだ。

 

最初こそ、甘い言葉を、囁いていたものの、全く、相手に

されなかったSは、とうとう業を煮やし、あろうことか

その美人派遣社員さんに対して、

「デートしなければ、仕事から外す!」

などど、脅してしまったのだ。

 

何をしてるんだ、Sよ!

女性を脅すだなんて、ドンファンの名が泣くぞ~~~。

 

今まで、美人モデルさんやら、美人CAさんやら、周囲が

驚愕するほどの美人と、数多、浮名を流してきたというのに、

「恫喝」してまで、女性と付き合おうだなんて・・・・。

 

磨き上げてきた、ドンファンの手練手管は、

錆びついてしまったのか!?

 

ま、関東の女性は、比較的、雰囲気と、甘い言葉に

弱いのかも知れないけど・・・。

九州の女性は、一本芯が通ってますからね~。

そうそう簡単には、落とせませんけどね~。 (-。-)y-゜゜゜

 

しかし、一度「イエローカード」を突きつけていた、

同じ信販の先輩Tさんは、この事態に、烈火のごとく怒った。

Tさんの、この怒りには、多少、嫉妬も交じっていたかも

知れないが、それよりも、可愛い後輩が、パワハラ・セクハラ

の憂き目に遭っているのを見過ごせないという、

女の心意気の方が、今回は、勝っていたと思う。

 

いくら先輩と言えど、Tさんとて、雇われの身。

取引先のSを、怒らせてしまえば、Tさん自身が、首になる

危険もあるからだ。

 

Tさんは、私の居るお帳場にやってくると、鼻息も荒く

捲し立てた。

 

「もう、今日という今日は、絶対に許せないわ!」

「新人さん、トイレで泣いてたのよ~~~~。」

「いくら彼女が美人で、所長の好みだからってさ、人妻よ!」

「いや、人妻じゃなくったって、嫌だっていっているものを

仕事を干すとか、脅して、デートに持ち込もうとしてるのって

絶対、男として、人間として、許せないわ。」

 

「私ね、もう、自分が、この仕事から外されてもいいのよ。

決心したわ。今日、支社に戻ったら、今回の一件を、上司に

話して、会社として、しっかりと抗議してもらうわ!」

 

あまりの勢いに、狭いお帳場は、熱気が籠りそうだったが、

Tさんの怒りは、至極ご尤もな事なので、私は頷きながら、

傾聴した。

 

「確かに、目に余る酷い行為ね! 

もう、情けないわ・・・・同じ会社の人間として・・・。」

「たださ、もしTさんが、信販会社に戻って、この事を

上司に相談したとして、上司は、ちゃんと動いてくれる?」

信販会社さんだって、お得意さんには、色々言いづらいこと

もあるでしょ? ましてや、セクハラ・パワハラとなれば

言い逃れできないほどの証拠がないと、Sからの反撃に

遭うよ。」

「口説かれている時、録音するとかさ・・・証拠残さないと

Sは、意外と上に信頼されているから、不問に伏されるかも

知れないよ。」

 

「大丈夫よ、私、その口説き文句聞いていたもの。

証言できるわ。」

「そっか~、じゃ、一度、上の人に相談してみて。」

「私も、それとなく所長に、釘刺しておくから。」

「それでも、ダメだったら、もう仕方ないね・・・。」

 

やれやれ、Sの底なしの女癖の悪さのせいで、私は、

自分の仕事以外に、厄介な事を引き受けざるを得なかった。

 

しかし、ここは下手に動くと、Tさんや、新人さんの首が

飛ぶ危険性がある。

上司をものともしない、恐れ知らずの鉄仮面おばちゃんとて

軽々に動くのは、考え物だ。

 

私は、Sに直談判する前に、一計を案じた。

 

 

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㉚

連休明けの社内では、和気藹々と、呼子ドライブの話題が

盛り上がっていた。

 

呼子の烏賊、美味しかったね~。」

「初めて食べたけど、感動したわ~。」

「ビーチボールも、めっちゃ盛り上がったね!」

「何か、みんな、めいっぱい、はしゃいじゃったよね~。」

「ほんと、楽しかった~~~。」

 

「でも、一番、楽しんでて、若いな~って思ったのって・・・。」

 

「所長!」

 

異口同音に、答える新人達。

 

「そうそう、服着たまんま、海へ走り出したんで、びっくり

したよね~。」

「他の男子も、ちょっとつられて、海入ってたね~。」

「なんかさ~、高校生みたい。」

「青春(あおはる)かよ~~~~。」

 

新人たちの、そんな話を、楽し気に聞いていた、大人たちだったが、

おもむろに、営業のおばちゃんが、一言。

 

「まるで、青春群像みたいだったわよ!」

「若い教師と、その教え子みたいな・・・・。」

 

「え~っ、一緒に行ってたの?」

思わず、その事実に、びっくりした私。

 

「あなたも、来ればよかったのよ~。」

 

「そうね、次回があれば行くわ。」

 

そんな気もないくせに、一応忖度してみた。

 

「ところで、所長、皆が浜辺で、ビーチボールしていた時

誰かに、電話してませんでしたか?」

 

「誰に、電話してたんですか?」

 

「う・・・うん、ちょっとね・・・。」

 

Sは、急に、思わぬことを聞かれて、答えを濁した。

まさか、公衆電話で、電話を掛けている自分の姿を、

他人に見られていたとは、思わなかったのだろう。

 

「あ~~~、さては、ご家族が恋しくなって電話

してたんでしょ~。」

 

「まあ・・・・ね。」

 

私は、新人たちの、急な質問にも、Sのしどろもどろの

答えにも、顔色一つ変えずに、平静を装った。

 

やはり、Sだったか・・・・と、心の中では、「正解」

のピンポンが、鳴ってはいたのだが・・・。

 

Sが、私に、無言電話を掛けてた・・・なんて事実は、

新人達にも、会社の大人チームにも、ましてや、

当の、私本人には、絶対、知られたくない事だろうと、

思ったからだった。

 

どんな動機で、どんな思いで、電話を掛けていたとしても、

自分の弱みは、絶対、人には見せたくない!

 

これは、残念ながら、ドンファンなSと、冷徹おばちゃんの

私の、唯一の共通点だったかも知れない。

 

年齢も、性別も、生き方も、真逆な二人だったが、

ツインソウルたる「片鱗」が、この可愛げのない

 

「自分の弱みは、絶対、人には見せない」

 

というポリシーだったことに、私は、少しばかり

先に、気付いていたのかも知れない。

 

案外、私の方が、Sよりも一枚上手の「食えない奴」

だったかもね!(爆)

 

ドンファンな下心を隠しつつも、ちょっと危なげな色気を

漂わせつつも、ギリギリ「青春群像の若き教師」のままで

留まって居てくれさえすれば・・・・。

 

鉄仮面で、何を考えているか解らん、おばちゃん事務も、

きっと、Sの不都合な真実を、そっとオブラートに包んで

それなりに、有能な右腕で居られたに違いないのだが・・・。

 

あの頃の私は、そう、切に願っていた。

 

そんな願いが、すぐに絶望に変わってしまうとも知らずに・・・。

 

 

 

 

 

 

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㉙

季節は、夏になっていた。

夏の連休に、みんなで、どこかへ遊びに行こうという

計画が上がっていた。

 

「どこがいいかな~」

「やっぱり、夏だし、海がいいんじゃない?」

「綺麗な海、みた~~~い!」

 

「ねえ、呼子とかどうかな?」

呼子?」

「烏賊が、めっちゃ美味しいよ~。」

Mの提案に、皆賛成して、車で分乗して出かける事

になった。

「まず、人数よね。

車何台いるか、割り振りも必要だし。」

「私たち14人と、M先輩と、所長でしょ・・・。」

 

「瑠璃さん、一緒に行きませんか?」

 

新人の女の子が、私を誘ってくれた。

 

「う~ん、子どもいるから、行けないわ。」

「え~、一緒に連れてきたらいいじゃないですか?」

「でも、うちの子も、私も、車弱いのよね~。」

「え~~そうなんですか・・・。」

「でも、窓全開で走れば、大丈夫じゃないですか?」

 

「ところで、お子さんって、いま、お幾つなんですか?」

「小4よ。」

「男の子ですか、それとも女の子?」

「男の子よ。」

「うわ~逢ってみた~~い。」

「連れてきてくださいよ~。」

「顔見たい~~~。」

「可愛いですか?」

「どうかな・・・写真ならあるけど・・・。」

「え~~~見せて~~~見せて~~~。」

 

女の子たちが、こぞって、小4の息子の写真に群がった。

 

「いや~~~ん、めっちゃイケメンじゃないですか~。」

「うわ~可愛い~~~エプロンしてる~。」

「お料理手伝ってくれるんですか?」

「ああ、それね、親子料理教室へ行った時の写真なのよ。」

「へ~いいな~。」

「私、若かったら、付き合いたい~~~。」

「あははは」

「じゃ、うちの息子が成人するまで、待っててください」

「やだ~おばちゃんになっちゃうじゃん。笑」

 

ひとしきり、盛り上がったのだが、私は、呼子へのドライブ

への参加は、見送った。

若いお兄さんお姉さんと、遊べるのは、いい機会だったかも

しれないが、お調子者の息子が、何か、やらかしては

申し訳ないからね・・・。

 

単身赴任している夫と、仕事をしている私。

 

きっと、遊びたい盛りの息子が、日ごろのうっぷんを

晴らすべく、大はしゃぎするのが、目に見えるようだった。

 

何時ものように、息子と二人だけの休日。

日ごろ出来ない家事を片付け、お昼もすませて、リビングで

ゆったりとしていたその時、電話のベルが鳴った。

 

ファックス電話の表示版は、「公衆電話」と表示されていた。

「公衆電話?」

不思議に思いつつ、私は、受話器を取った。

 

「はい ●●です。」

 

しかし、返答はない。

 

「もしもし、●●ですけど・・・。」

 

やはり、返答はない。

 

受話器に耳を澄ましてみると、遠くに若い人の歓声が聞こえた。

 

ザア~~という波の音も、かすかに漏れ聞こえてくる。

 

電話の主は、相変わらず、息を殺して黙っていたが、

私には、それが誰であるか、もう解っていた。

 

声には、ならなかったが、受話器の向こうの相手の、重苦しい

言うに言えない「辛さ」みたいな感情が、回線を通して

私に伝わってくる気がしていた。

 

私は、無言で、電話の相手と向き合っていた。

何が言いたいのだろう・・・。

何が、そんなに辛いのだろうか・・・・と。

 

ふいに、遠くから、電話の主を呼ぶような声がして

電話は、プツリと切れた。

向こうは、気付いただろうか・・・・。

私が、電話の相手が、誰だかわかっていたことを・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㉘

結局、Mは、Sの家族が来福中、ぬけぬけと家にまで

押しかけ、逢いに行っていた事が、解った。

しかも、黙っていればいいものを、Mは、その事実を会社で

しかも、新人達が居る前で、喋ってしまった。

 

若い新入生に、Sを取られまいと、釘を刺したかった

のかも知れないが、それは、あまりに愚かな行動だった。

 

会社の大人チームは、Mの大胆不敵な行動に、呆れ、もう

付ける薬は無いな・・・と諦めていた。

 

「子どもたち、二人とも可愛くて、思わず、だっこ

しちゃいました~。

私、あの子たちなら、お母さんになれるかな~って。」

 

(おいおい、あんた、絶対、奥さんにばれてるって・・・。)

 

そんな痛い言動をする先輩なのに、新人後輩達は、あまりに

大人で、切なくなってしまう。

 

「うわ~会いに行ったんですか~、いいな~、私たちも

逢いたかったな~。所長、今度来られたら、絶対、私たち

にも、逢わせてくださいね~。」

 

「う・・うん、解ったよ。」

 

Mにとっては、前門の虎(新人美女軍団)、校門の狼(信販の美人派遣)

って状態で、油断できないから、必死なんだろうけど・・・。

 

いつもは見えてないけど、頭の上に、奥様という、巨象が居るのよ。

大人しく見えても、一旦、暴れると、虎も、狼も、蹴散らされるのよ。

ましてや、白〇〇なんて、一気に踏みつぶされるわよ。

だてに、ドンファンの奥様業を、何年もやってる訳じゃないんだから。

 

何だか、Sの奥さんの事が、他人事とは思えなくて、私も、

一度お会いして、本当の気持ちは、どうなのか、

聞いてみたい衝動に駆られていた。

 

夫の不倫に悩む、人妻同士、案外気があったりしてね!

 

Sが、赴任してすぐ、私に、奥様が住んでいる家の住所と

連絡先を、渡そうとしたことが、あったのだが・・・。

 

「え、渡して大丈夫ですか? 何かあったら、すぐ連絡

入れちゃいますよ~。」と、冗談を言ったら、

「あ、それもそうだな・・・。」って

すぐに、引っ込めた事が、あったっけ・・・。

余計な事言わないで、貰っておけば良かったよ。

 

そうすれば、もうちょっと、堅牢な防波堤になれた

かも知れないのに・・・。

 

奥さんに会ったことで、自信がついたのか、Mの行動は

もはや、誰にも止められないほどの、暴走列車と

化していた。

 

お酒の席で、Sの横にべったりと寄り添い、

「私、肉付きがいいんで、抱き心地がいいんですよ~。」

って、体をくねらしてみたり・・・。

 

(何のアピールやねん・・・)

 

これには、さすがのSも、

「よくそんな事、ここで言うな~・・・引くわ・・・。」

と、驚いていたのだが・・・。

 

もう何でもアリなんやな・・・。

何で、そんなに必死なのか・・・。

 

私たち大人チームの前だけなら、私たちが、胸やけすればいいだけ

の話だったのだが・・・。

 

Mの顕示欲は、もはや、真夏の積乱雲の如く、ムクムクと膨れあがり

新人達はおろか、取引先のベンダーさん達にすら、遠慮しない

状態へと陥っていた。

 

ある展示会でのこと。

 

着物をまだ、着つけていなかったMは、

「所長~、着物着させてくださぁ~~~い。」と大声で

叫びながら、Sを探していた。

それを聞いていた、着つけのプロの女性が、

「何いってるの、はしたない!男の人に着つけてもらう

だなんて。」

「こっちいらっしゃい。着せてあげるわ。」

と、Mの手を引いて、お帳場へと連れて行こうとしたのだが

「私、所長がいいんですぅ~、所長に着せて貰いたいんですぅ。」

と言いながら、着物一式を持って、会場の真ん中辺りで、準備

していたSの元へ、走り寄って行った。

 

Sは、少々呆れながらも、「仕方ないな~、着せてあげるよ」

と言ったのだが、まだ、洋服のままで、襦袢すら着てないM

を見て、「おいおい、ここでストリップでもやる気か!?」

と、さすがにあきれ顔。

 

額に血管が浮かび上がって、怒り心頭な様子の、着付けの先生が

「こっち、いらっしゃい!」と

半ば、強引に、Mの手を引いて、お帳場へと連れ去っていった。

中で、着つけて行きなさい!と、着つけの先生に、再度説得

されていたようだったが、襦袢を着せて貰うやいなや、Mは

着物を、襦袢の上から引っかけて、すぐに、Sの元へと

走り寄ってきた。

 

「所長~、着させてくださ~~~い。」

「全く、しょうがねえなぁ~。」

そう言いながらも、まんざらでもない表情で、着付けを

請け負うS。

 

しかし、そこは会場のど真ん中。

 

SとMを真ん中にして、新人達も、取引先ベンダーさんも、

着つけの先生も、信販会社の女性たちも、取り巻くようにして

二人の、エロス漂う、安っぽいお不倫劇場を見せられているのだ。

 

明らかに軽蔑して睨む顔。

ニヤニヤ笑っている顔。

嫉妬で目の奥の炎が燃えている顔。

見てはいけないものを見せられて、目のやり場に困っている顔。

 

そんな十人十色の顔が、二人を遠巻きに見つめていた。

 

一体、何なんだ! コレは!

 

これから、お客様を迎えるにあたって、皆、緊張し、頑張ろうと

準備をしている最中だというのに・・・・。

 

何のために、私たちは、こんなものを見せられている訳????

 

(せめて、お不倫のイチャイチャタイムは、場外でやってくれ!)

 

当の二人は、そんな大勢の、声なき雑音など、気にする素振りは

全く無かったのだが・・・。

 

(このシチュエーション、痛快TVスカッとジャパンで、再現して

貰って、誰かに、神対応大岡裁きしてもらいたいわ~~~。)

 

残念ながら、その時には、誰も神対応できる人は、出現

しませんでした。

 

さすがの、冷徹おばはんの私も、呆れかえって、

嫌味の一つも言えませんでしたわ。

 

厚顔無恥に付ける薬など、どこにも売ってない!

 

 

 

 

 

 

 

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㉗

奥さんと子どもさんが、来福する少し前、Sは、

久しぶりに会う家族の為、家族孝行よろしく

色々、プランを練っていたようだった。

 

「ねえ、瑠璃さん、子どもが、楽しく遊べる場所とか

ないかな~。」

「そうですね、お子さんが、思いっきり公園とかで、

体を動かして、遊具で遊びたいなら、博多の森東平尾公園)とか

いいかもですね~。長い滑り台とか、遊具もありますし。」

「そこって遠いの?」

「そうですね、ちょっと車ないと不便ですね・・・。」

 

「じゃ、もっと近場で・・・。」

「だったら、観覧車とかどうですか?」

「アジア一大きい観覧車と、小ぶりな観覧車二つあって、

眺めもいいですし、海沿いで、風が気持ちいいんですよ。

それにレストランとか、ちょっとした商業施設もありますよ。」

 

「いいね~。」

「そこどこ? 近い?」

「マリノアシティって言うんですけど、地下鉄の最寄り駅から

確か、バスが出てたと思いますよ。」

「あ、良かったら、観覧車の無料チケット頂いたんで、

使いますか?」

「え、本当? いいの?」

「はい、もう一回乗っちゃったんで、高所恐怖症の私としては

もう、お腹いっぱいですから、ご遠慮なくどうぞ!」

私は、財布に、入れっぱなしにしていたチケットを、手渡した。

 

「サンキュ~助かるわ。」

「よく、そこ行くの?」

「まあ、家から近いので、時々、買い物とか行きますね。」

 

「家、近いんだ・・・。」

「まあ、ギリギリ歩けなくはないかな・・・って感じですが。」

「戸建て?それともマンション?」

「マンションですよ。」

「海近物件で、すごく気に入ってます。」

「建物何色?」

「茶色ですけど・・・何か・・・。」

「いや、別に・・・。」

 

Sの知らないところで、色々な思惑が揺れているのも知らず

「以外に子煩悩」という、一面を覗かせつつ、能天気な

までに、浮かれた調子を見せるSに、私は、複雑な思いが

湧いた。

 

なんで、家族別々に住むことになったんだろう・・・。

まだ、お子さんは、小学校就学前だし、一緒に家族揃って

福岡に来ていれば、波風立つことも、なかったかも

知れないのに・・・・。

 

つかの間の家族ランデブーが終わり、何事も無かったかのように

また、いつもの日常が戻ってきた。

 

「瑠璃さん、この間はありがとう。坊主達、物凄く喜んだよ。」

「そうですか、それは良かったです。お役に立てて・・・。」

「ゆっくり出来ましたか?」

「うん、あそこ気持ちいいよね~、海も綺麗だし、風も気持ち

良いし、あんなとこ住めたらいいよね。」

 

「マリノアシティから、ちょっと歩けば、住宅街ありますよ。」

「お子さんも、小さいから、ご一緒に引っ越して、住んだら

楽しいと思いますよ。」

 

「うん・・・でも、奥さんが転勤、嫌がっててね・・・。」

「そうですか・・・、お子さんが小さいうちは、できれば

一緒に暮らした方が、いいと思いますけどね・・・。」

 

「それにしても、良い景色だったな・・・観覧車からの眺め。」

 

 

「思わず・・・・探しちゃったよ。」

 

「・・・・何を?」

 

「近くに住んでる・・・・って言ってたからさ・・・。」

 

「え・・・ああ・・・そうですか・・・。」

 

「まあ、解んなかったけどね・・・。」

 

そりゃそうだ。

あの辺り、360度 マンションは一杯あるし、

茶色のマンションだって、珍しくない。

 

しかし、その科白、もしかして、

私への、お礼の積りなのかしら?

 

ゴメンね、ときめかなくて。(爆)

 

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㉖

取引先との間に、暗雲が垂れ込めそうな事態になった

その折も折、なんと、今まで、放置プレイを決めこんで

いたSの奥様と、お子さんが、来福する事になった。

 

アレ・・・以外に、奥さん、いい感してるかも!?

 

「ねえねえ、ちょっと知ってる?」

訳知り顔で、年長のおばさんが、小声で私に話しかけてきた。

「何?」

「Mちゃんだけどさ、来週、Sの奥さんが来るじゃない。

奥さんが来てるときは、電話掛けないように、Sに念押し

されたらしいわよ!」

 

「え~念押し! 念押しされないと、掛けちゃうわけ?」

「電話できないと、寂しい」とか言ってたわよ~。

「呆れた・・・。」

「お子さんも来るんだもの、せめて親子のデートぐらい

静かに待ってあげるのが、現地妻のルールよね~。」

 

 現地妻のルールって!(爆)

 

もう、自分の言っていることに、何の意味も正当性も

ないことは解っていたが、せめて、子どもたちには、

嫌な思いは、させたくなかった。

同じ、子どもを持つ母として。

 

Sの子どもたちが来ることを知り、会社の新人さんたちも、

ちょっと浮足だっていた。

「え~お子さんって、デスクに飾ってある、あのお子さん

ですよね~。」

「すごっく可愛い~。」

「会いたいな~。」

「会社に連れてきて下さいよ~。」

特に、女の子達は、Sジュニアと、遊びたがっていた。

 

Sは、自分のドンファンっぷりを、カモフラージュにする為か、

はたまた、家族(。・ω・。)ノ♡のアピールの為か、

デスクに、二人の子どもの写真を飾っていたのだった。

いかにも、SのDNAを、受け継いでいると言わんばかりに

そっくりな、その男の子達は、写真縦立ての中で、無邪気に

笑っていた。

 

Sだけでなく、Sジュニアも人気になりそうな気配に、

Mは、慌てたのだろうか・・・。

「私も、会いたいです。」

「会いにいっていいですか?」

と、とんでもないことを言い出した。

 

「いや、ちょっとMちゃん、せっかくの家族水入らず

なんだから、そこは遠慮しといたら・・・。」

 

そんなことを言う、おばちゃんずの忠告など、彼女は

どこ吹く風である。

 

「不味いわね・・・奥様VS愛人対決じゃないの!」

 

女の感は鋭いのだ。

 

どんなにMが、演技派女優だったとしても、ドンファン

妻として、こと女性の匂いには、敏感な筈の奥様が、

見抜けない訳がない。

狐と狸の化かしあいの冷戦か、はたまた、仁義なき

血みどろの闘争となるのか・・・・。

 

まあ、子どもさんも一緒だから、お互い、顔に出す訳

にはいかないだろうけれど・・・・。

 

展示会も、同時進行だったため、信販のTさんにも、この

事情は漏れてしまっていた。

 

「来てるんですってね・・・。」

「そうなのよ。」

「私さ、Mちゃんが、S所長に電話しないかどうか

見張っているのよ。」

「えっ・・・どうやって?」

「Mちゃんと、S所長に交互に電話してるの。」

「仮に、Mちゃんの電話が話し中で、すぐにS所長に

掛けて、電話中なら、二人は、電話しているってことでしょ?」

 

「え~~~~~っ、そんな事してるの!?」

 

Tさんの、何かに憑かれたような情熱に、私は、思わず、背筋が

凍った。

 

「でもさ、奥様も来ている訳じゃない?もしも電話が繋がったら

どうするの? 奥さん、変に思わないかしら?」

「そんな事ないでしょ、だって私、Mちゃんを見張ってあげて

いるんだもの。感謝してもらいたいくらいよ。」

 

あの快活で、豪快なTさんは、どこへ行ったのだろう・・・・。

私の目の前にいるTさんは、もう、全く別人のように

しか見えない。

 

その後も、Tさんの「正義感溢れるストーカー」ぶりは、

次第にエスカレートし、Sの立場を追い込み、尚且つ

取引先とのゴタゴタの末、本社に知られることと

なってしまう。

私が、退職した後も、彼女は、頼まれてもいないSの

行動報告書を、いちいち、私に、送信してきた。

 

いや・・・もう、Sのゴタゴタに巻き込まんでくれ!

 

何度、心から、お願いしたことだろう・・・。

しかし、Sへの執着を、復讐心へと醸成させたTさんには

私の、本心は、届かなかったようだった。

 

 

 

 

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㉕

新人が入り、フレッシュな接客に惹かれたのか、展示会を重ねる度に、

新しいお客様が、増えて行った。

勿論、それに伴って、お客様が組むローンの手続きも増えてくる。

Tさん一人体制では、難しくなり、新たに信販会社から、もう一人

派遣されるようになった。

今回派遣されたのは、Tさんよりも、一回り若い女性。

勿論、美人の産地「博多」の名を汚さない、超美人さんである。

フジテレビの「めざましテレビ」に出てる久慈 暁子

さんみたいなタイプだ。

 

ただ、このあたりから、Tさんの明るさに、若干翳りが

生じてきたように思う。

 

「あ~あ、私達ぐらいの年齢になるとさ、ガードル履いても

もう、おなかのぽっこり、誤魔化しようがないわね~。」

「何いってるの~Tさん、スレンダーじゃないのよ~。

そんな事言われたら、私は、どうしたらいいのよ~。」

私なんか、ガードル履いても、履かなくても、タヌキ腹

に変わりないんだから~~~~。」

 

そう、笑いながら励ましても、彼女の顔は、何故か、

浮かないままだった。

 

「結婚して、子どもとかできて、しばらく経つと、どうして

なくなっちゃうんだろうね・・・。」

 

「あ・・・」

 

Tさんが、ご主人に対して、不満を持っているということは

薄々感じてはいたのだが、その一因が、セックスレスだった

事に気付き、私は、何故か、ちょっと、ほっとしていた。

 

「みんな、そんなもんだと思うわよ~。」

「一緒に暮らしていると、もう男女って感じじゃなくなるもんね。」

 

こんな科白が、決してTさんの慰めにはならないことは、解って

いたのだが、これは、日本人夫婦には、結構ありがちな悩みだと

思う。

 

「最近さ、S所長冷たいよね~。」

「え何で? 何か嫌な事言われたの?」

 

「そうじゃないけどさ・・・・、ちょっと前まで、私のこと

綺麗だとか、若く見えるとか、誉めてくれたのにさ、今は

全く、目線すら合わないわ。」

「若い子が来たら、もう、そっちしか、目に入らないって

感じよ。」

「ああ、新人さんね! 確かに美人さんだものね。」

「彼女、若いけど、既婚者だし、しつこく食事に誘われて

困るって、言ってたわ。」

 

「え~~~、もう、そんなにアタック掛けてるんだ!」

「迂闊だったわ~。」

「まさか、取引先さんへ、魔の手を伸ばしていたとは!」

「内内で、不倫されるのも困るけど、変に取引先と

ゴタゴタするのは、尚更困るわ・・・。」

 

「そうでしょ! あまりしつこいようだったら、会社に

言って、ベテランさんに変えて貰うわ。」

 

果たして、Tさんに、そんな権限があるのかどうか、私には

計りかねたが、取引先に信頼が厚く、ベテランのTさんが、

会社に、ご注進申し上げたとしたら、全く、放置されると

いうことには、ならないだろう。

 

私は、何だか、嫌な予感がした。