そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㉝
ある日の午後、私は、Sから呼び出された。
「ちょっと瑠璃さん、入り口のドアストッパーなんだけど
どのタイプにするか決めたいんで、ちょっと見てくれる?」
「え、ドアストッパーですか? 所長の使い安いタイプで
決めて頂いていいと思いますけど・・・。」
「まあ、そう言わず、ちょっと、こっちに来て、実際に
見てみてよ。」
私は、Sの後について、入り口のドアの外側に立った。
「やっぱりさ、この一本足タイプだとさ、荷物を運ぶとき
ドアの重さを支えきれずに、動く可能性があるから、もっと
しっかりした、こっちのタイプがいいよね?」
Sが、しゃがみ込んで、ドアの前に座って、カタログを見て
いたので、私も、同じ体制でしゃがみ、カタログを除き込んだ。
「そうですね、そちらの方が、安定感があると思います。」
「じゃ、こっちにするか・・。」
わざわざ、私に見せるほどの事でもないのに・・・と思いつつ
立ち上がろうとしたのだが、それを遮るかのように、
Sは話し続けた。
「ところでさ・・・・まあ、色々噂というか、色んな誤解が
あるんだと思うんだけどさ・・・・。」
その一言で、私は、例の一件だと察した。
「何のことでしょうか?」
「何か、俺がさ~、色々良からぬことをしているって噂が
立っててさ~。」
「へぇ~そうなんですか~、噂なんですか~。」
「火のないところに、煙は立たずって言いますけどねぇ~。」
「いや、誰かが、火のない所で、煙モクモク出している
みたいなんだよね~。」
「あら、誰でしょ?」
「いや、他に居ないでしょ?」
「私、別に、煙モクモク焚いてませんよ。むしろ煙が
小火にならないように、火消ししている積りですけど。」
「噂に尾ひれが、ついちゃってさ、大げさになって、困ってる
んだよ。」
「あちこちの所長から、怒られるし、部長には睨まれるし。」
「尾ひれ? 尾ひれの部分で、どこでしょうか?」
「所長が、信販会社の既婚女性を口説いて、意に添わなかった
から、「辞めさせる」と脅して、ご本人がトイレで、泣いて
しまわれた・・・って部分でしょうか?」
「これ、尾ひれでなくて、事実ですよね?」
「いや、食事には誘ったよ。確かに・・・。でも実際デートも
した訳じゃないんだし、色々詮索されるのはさ・・・。」
「所長、事の重大さ解ってます?」
「デート云々じゃなくて、嫌がる女性に、職権乱用して
自分の思い通りにしなければ、辞めさせるって言っている
んですよ。」
「これ、立派なセクハラで、パワハラですから!」
「きちんと、相手に謝って和解しないと、訴えられることも
あるし、既に、信販会社の上司に、事情が知れ渡っている
かも知れないんですよ。信販会社の方から、正式に通知が
来たら、社長にも知れてしまうかも知れないんですよ。
そうならないように、所長さんたちが、ストップかけて
くれようとしているんです。」
「いや、それが余計なことじゃないか~。」
「はぁ~!?」
私たちは、座った姿勢から、いつの間にか立ち上がり、
腕を組んだままで、お互いを睨み合って立っていた。
不穏な空気に、部屋の中で作業していた新人達が、いつの間にか
こちらを、チラチラと盗み見していた。
「痴話喧嘩?」
そんな声が、聞こえた。
(冗談じゃないぜ~~~~。何が痴話喧嘩だ!)
私は、急にバカらしくなり、踵を返した。
「とにかく、自重してくだいよ。」
「私は、もう知りませんからね!」
年下とは言え、パートのおばちゃんが、上司に正々堂々
楯突いた瞬間だった。
そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㉜
仕事から、戻ると、食事の支度・片付け・お風呂・そして
子どもの世話が待っている。
一通り済ませると、私は、携帯電話を取り出した。
今日の一件は、事務のパートのおばちゃんが、簡単に
解決できる問題ではないからだ。
電話の相手は、同期の仙台支社の事務の女性。
彼女とは、当時、一度も会ったことは無かったが、入社した
時期が近かったこともあり、複雑で独自な会計処理の仕方や
システムの不具合の件で、お互い、相談することが多くなって
仲良くなったのだった。
結構、物理的距離は離れているけどね・・・。
「いや、もう聞いてよ~~~。」
「何々?」
「奴が、やらかしてくれたのよ~。」
「え~~~また? 女性関係かい!」
「それ以外無いでしょうよ・・・。」 "(-""-)"
仙台の彼女も、Sと短い間ではあったが、働いた経験があり
Sの女癖には、辟易させられた一人でもあった。
「で、何やらかしたの?」
「実はさ、信販の既婚女性に、お付き合い迫ってさ
振られ続けたもんだから、とうとう首にするって
恫喝しちゃってさ~。」
「え~~~もう、何・・・何やらかしてるのよ~。」
「でしょ~~~~。」
「信販の先輩女子が怒ってさ、上司に報告して、会社
として断固抗議してもらう!って、もうレッドカード
状態なのよ~。」
「あいた~~~やらかしたね~。」
「うちに居た時はさ、こっちのレディさん、あっちの
レディさん(営業レディ)って、渡り鳥みたいに、渡り
歩いていたんだけどさ~。」
「とうとう取引先まで、手を出したか・・・。」
「まあね、美人なのよ~。色白さんで、細くて、儚げで。」
「ありゃ~ドストライクなのね。」
「でもさ、あまりに芸がない・・・そしてえげつない。」
「モテ男のメンツが廃るってか~。」
「どうしたらいいと思う?」
「私が何か言ったって、屁の河童、聞きやしないと
思うのよね。」
「信販会社から、ねじ込まれる前に、先輩諸氏から、拳固
してもらう手はないかしら?」
「あ、うちの所長、ちょっとSより先輩だし、Sの女癖の
悪さも知ってるから、言って貰おうか?」
「うわ~お願いできる?」
「うん、言ってみるね。」
仙台の彼女の進言のお陰もあったのか、はたまた、昔っから
Sに対する反感があったのか、仙台の所長だけでなく、数名の
所長達が、本社の上司や、直接Sに苦言を呈してくれたよう
だった。
しかし、そのとばっちりが、後日、私の身に降りかかって
きたのだった。
そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㉛
Mのあまりに、あざとい「愛人アピール」が、効きすぎたのか
Sが、新人女性達と、必要以上に親しくなれない雰囲気が
生まれつつあった。
まあ、大人チームとしては、変に、新人女性に手を出されて
ゴタゴタするよりは、多少目には余っても、Mが防波堤に
なってくれるのであれば、もう、致し方ない事として
目を瞑ろうと、考えるようになっていた。
しかし、それでは、Sの狩猟本能が満たされなかったらしい。
口説き落しにかかっていたのだ。
最初こそ、甘い言葉を、囁いていたものの、全く、相手に
されなかったSは、とうとう業を煮やし、あろうことか
その美人派遣社員さんに対して、
「デートしなければ、仕事から外す!」
などど、脅してしまったのだ。
何をしてるんだ、Sよ!
女性を脅すだなんて、ドンファンの名が泣くぞ~~~。
今まで、美人モデルさんやら、美人CAさんやら、周囲が
驚愕するほどの美人と、数多、浮名を流してきたというのに、
「恫喝」してまで、女性と付き合おうだなんて・・・・。
磨き上げてきた、ドンファンの手練手管は、
錆びついてしまったのか!?
ま、関東の女性は、比較的、雰囲気と、甘い言葉に
弱いのかも知れないけど・・・。
九州の女性は、一本芯が通ってますからね~。
そうそう簡単には、落とせませんけどね~。 (-。-)y-゜゜゜
しかし、一度「イエローカード」を突きつけていた、
同じ信販の先輩Tさんは、この事態に、烈火のごとく怒った。
Tさんの、この怒りには、多少、嫉妬も交じっていたかも
知れないが、それよりも、可愛い後輩が、パワハラ・セクハラ
の憂き目に遭っているのを見過ごせないという、
女の心意気の方が、今回は、勝っていたと思う。
いくら先輩と言えど、Tさんとて、雇われの身。
取引先のSを、怒らせてしまえば、Tさん自身が、首になる
危険もあるからだ。
Tさんは、私の居るお帳場にやってくると、鼻息も荒く
捲し立てた。
「もう、今日という今日は、絶対に許せないわ!」
「新人さん、トイレで泣いてたのよ~~~~。」
「いくら彼女が美人で、所長の好みだからってさ、人妻よ!」
「いや、人妻じゃなくったって、嫌だっていっているものを
仕事を干すとか、脅して、デートに持ち込もうとしてるのって
絶対、男として、人間として、許せないわ。」
「私ね、もう、自分が、この仕事から外されてもいいのよ。
決心したわ。今日、支社に戻ったら、今回の一件を、上司に
話して、会社として、しっかりと抗議してもらうわ!」
あまりの勢いに、狭いお帳場は、熱気が籠りそうだったが、
Tさんの怒りは、至極ご尤もな事なので、私は頷きながら、
傾聴した。
「確かに、目に余る酷い行為ね!
もう、情けないわ・・・・同じ会社の人間として・・・。」
「たださ、もしTさんが、信販会社に戻って、この事を
上司に相談したとして、上司は、ちゃんと動いてくれる?」
「信販会社さんだって、お得意さんには、色々言いづらいこと
もあるでしょ? ましてや、セクハラ・パワハラとなれば
言い逃れできないほどの証拠がないと、Sからの反撃に
遭うよ。」
「口説かれている時、録音するとかさ・・・証拠残さないと
Sは、意外と上に信頼されているから、不問に伏されるかも
知れないよ。」
「大丈夫よ、私、その口説き文句聞いていたもの。
証言できるわ。」
「そっか~、じゃ、一度、上の人に相談してみて。」
「私も、それとなく所長に、釘刺しておくから。」
「それでも、ダメだったら、もう仕方ないね・・・。」
やれやれ、Sの底なしの女癖の悪さのせいで、私は、
自分の仕事以外に、厄介な事を引き受けざるを得なかった。
しかし、ここは下手に動くと、Tさんや、新人さんの首が
飛ぶ危険性がある。
上司をものともしない、恐れ知らずの鉄仮面おばちゃんとて
軽々に動くのは、考え物だ。
私は、Sに直談判する前に、一計を案じた。
そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㉚
連休明けの社内では、和気藹々と、呼子ドライブの話題が
盛り上がっていた。
「呼子の烏賊、美味しかったね~。」
「初めて食べたけど、感動したわ~。」
「ビーチボールも、めっちゃ盛り上がったね!」
「何か、みんな、めいっぱい、はしゃいじゃったよね~。」
「ほんと、楽しかった~~~。」
「でも、一番、楽しんでて、若いな~って思ったのって・・・。」
「所長!」
異口同音に、答える新人達。
「そうそう、服着たまんま、海へ走り出したんで、びっくり
したよね~。」
「他の男子も、ちょっとつられて、海入ってたね~。」
「なんかさ~、高校生みたい。」
「青春(あおはる)かよ~~~~。」
新人たちの、そんな話を、楽し気に聞いていた、大人たちだったが、
おもむろに、営業のおばちゃんが、一言。
「まるで、青春群像みたいだったわよ!」
「若い教師と、その教え子みたいな・・・・。」
「え~っ、一緒に行ってたの?」
思わず、その事実に、びっくりした私。
「あなたも、来ればよかったのよ~。」
「そうね、次回があれば行くわ。」
そんな気もないくせに、一応忖度してみた。
「ところで、所長、皆が浜辺で、ビーチボールしていた時
誰かに、電話してませんでしたか?」
「誰に、電話してたんですか?」
「う・・・うん、ちょっとね・・・。」
Sは、急に、思わぬことを聞かれて、答えを濁した。
まさか、公衆電話で、電話を掛けている自分の姿を、
他人に見られていたとは、思わなかったのだろう。
「あ~~~、さては、ご家族が恋しくなって電話
してたんでしょ~。」
「まあ・・・・ね。」
私は、新人たちの、急な質問にも、Sのしどろもどろの
答えにも、顔色一つ変えずに、平静を装った。
やはり、Sだったか・・・・と、心の中では、「正解」
のピンポンが、鳴ってはいたのだが・・・。
Sが、私に、無言電話を掛けてた・・・なんて事実は、
新人達にも、会社の大人チームにも、ましてや、
当の、私本人には、絶対、知られたくない事だろうと、
思ったからだった。
どんな動機で、どんな思いで、電話を掛けていたとしても、
自分の弱みは、絶対、人には見せたくない!
これは、残念ながら、ドンファンなSと、冷徹おばちゃんの
私の、唯一の共通点だったかも知れない。
年齢も、性別も、生き方も、真逆な二人だったが、
ツインソウルたる「片鱗」が、この可愛げのない
「自分の弱みは、絶対、人には見せない」
というポリシーだったことに、私は、少しばかり
先に、気付いていたのかも知れない。
案外、私の方が、Sよりも一枚上手の「食えない奴」
だったかもね!(爆)
ドンファンな下心を隠しつつも、ちょっと危なげな色気を
漂わせつつも、ギリギリ「青春群像の若き教師」のままで
留まって居てくれさえすれば・・・・。
鉄仮面で、何を考えているか解らん、おばちゃん事務も、
きっと、Sの不都合な真実を、そっとオブラートに包んで
それなりに、有能な右腕で居られたに違いないのだが・・・。
あの頃の私は、そう、切に願っていた。
そんな願いが、すぐに絶望に変わってしまうとも知らずに・・・。
そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㉙
季節は、夏になっていた。
夏の連休に、みんなで、どこかへ遊びに行こうという
計画が上がっていた。
「どこがいいかな~」
「やっぱり、夏だし、海がいいんじゃない?」
「綺麗な海、みた~~~い!」
「ねえ、呼子とかどうかな?」
「呼子?」
「烏賊が、めっちゃ美味しいよ~。」
Mの提案に、皆賛成して、車で分乗して出かける事
になった。
「まず、人数よね。
車何台いるか、割り振りも必要だし。」
「私たち14人と、M先輩と、所長でしょ・・・。」
「瑠璃さん、一緒に行きませんか?」
新人の女の子が、私を誘ってくれた。
「う~ん、子どもいるから、行けないわ。」
「え~、一緒に連れてきたらいいじゃないですか?」
「でも、うちの子も、私も、車弱いのよね~。」
「え~~そうなんですか・・・。」
「でも、窓全開で走れば、大丈夫じゃないですか?」
「ところで、お子さんって、いま、お幾つなんですか?」
「小4よ。」
「男の子ですか、それとも女の子?」
「男の子よ。」
「うわ~逢ってみた~~い。」
「連れてきてくださいよ~。」
「顔見たい~~~。」
「可愛いですか?」
「どうかな・・・写真ならあるけど・・・。」
「え~~~見せて~~~見せて~~~。」
女の子たちが、こぞって、小4の息子の写真に群がった。
「いや~~~ん、めっちゃイケメンじゃないですか~。」
「うわ~可愛い~~~エプロンしてる~。」
「お料理手伝ってくれるんですか?」
「ああ、それね、親子料理教室へ行った時の写真なのよ。」
「へ~いいな~。」
「私、若かったら、付き合いたい~~~。」
「あははは」
「じゃ、うちの息子が成人するまで、待っててください」
「やだ~おばちゃんになっちゃうじゃん。笑」
ひとしきり、盛り上がったのだが、私は、呼子へのドライブ
への参加は、見送った。
若いお兄さんお姉さんと、遊べるのは、いい機会だったかも
しれないが、お調子者の息子が、何か、やらかしては
申し訳ないからね・・・。
単身赴任している夫と、仕事をしている私。
きっと、遊びたい盛りの息子が、日ごろのうっぷんを
晴らすべく、大はしゃぎするのが、目に見えるようだった。
何時ものように、息子と二人だけの休日。
日ごろ出来ない家事を片付け、お昼もすませて、リビングで
ゆったりとしていたその時、電話のベルが鳴った。
ファックス電話の表示版は、「公衆電話」と表示されていた。
「公衆電話?」
不思議に思いつつ、私は、受話器を取った。
「はい ●●です。」
しかし、返答はない。
「もしもし、●●ですけど・・・。」
やはり、返答はない。
受話器に耳を澄ましてみると、遠くに若い人の歓声が聞こえた。
ザア~~という波の音も、かすかに漏れ聞こえてくる。
電話の主は、相変わらず、息を殺して黙っていたが、
私には、それが誰であるか、もう解っていた。
声には、ならなかったが、受話器の向こうの相手の、重苦しい
言うに言えない「辛さ」みたいな感情が、回線を通して
私に伝わってくる気がしていた。
私は、無言で、電話の相手と向き合っていた。
何が言いたいのだろう・・・。
何が、そんなに辛いのだろうか・・・・と。
ふいに、遠くから、電話の主を呼ぶような声がして
電話は、プツリと切れた。
向こうは、気付いただろうか・・・・。
私が、電話の相手が、誰だかわかっていたことを・・・・。
そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㉘
結局、Mは、Sの家族が来福中、ぬけぬけと家にまで
押しかけ、逢いに行っていた事が、解った。
しかも、黙っていればいいものを、Mは、その事実を会社で
しかも、新人達が居る前で、喋ってしまった。
若い新入生に、Sを取られまいと、釘を刺したかった
のかも知れないが、それは、あまりに愚かな行動だった。
会社の大人チームは、Mの大胆不敵な行動に、呆れ、もう
付ける薬は無いな・・・と諦めていた。
「子どもたち、二人とも可愛くて、思わず、だっこ
しちゃいました~。
私、あの子たちなら、お母さんになれるかな~って。」
(おいおい、あんた、絶対、奥さんにばれてるって・・・。)
そんな痛い言動をする先輩なのに、新人後輩達は、あまりに
大人で、切なくなってしまう。
「うわ~会いに行ったんですか~、いいな~、私たちも
逢いたかったな~。所長、今度来られたら、絶対、私たち
にも、逢わせてくださいね~。」
「う・・うん、解ったよ。」
Mにとっては、前門の虎(新人美女軍団)、校門の狼(信販の美人派遣)
って状態で、油断できないから、必死なんだろうけど・・・。
いつもは見えてないけど、頭の上に、奥様という、巨象が居るのよ。
大人しく見えても、一旦、暴れると、虎も、狼も、蹴散らされるのよ。
ましてや、白〇〇なんて、一気に踏みつぶされるわよ。
だてに、ドンファンの奥様業を、何年もやってる訳じゃないんだから。
何だか、Sの奥さんの事が、他人事とは思えなくて、私も、
一度お会いして、本当の気持ちは、どうなのか、
聞いてみたい衝動に駆られていた。
夫の不倫に悩む、人妻同士、案外気があったりしてね!
Sが、赴任してすぐ、私に、奥様が住んでいる家の住所と
連絡先を、渡そうとしたことが、あったのだが・・・。
「え、渡して大丈夫ですか? 何かあったら、すぐ連絡
入れちゃいますよ~。」と、冗談を言ったら、
「あ、それもそうだな・・・。」って
すぐに、引っ込めた事が、あったっけ・・・。
余計な事言わないで、貰っておけば良かったよ。
そうすれば、もうちょっと、堅牢な防波堤になれた
かも知れないのに・・・。
奥さんに会ったことで、自信がついたのか、Mの行動は
もはや、誰にも止められないほどの、暴走列車と
化していた。
お酒の席で、Sの横にべったりと寄り添い、
「私、肉付きがいいんで、抱き心地がいいんですよ~。」
って、体をくねらしてみたり・・・。
(何のアピールやねん・・・)
これには、さすがのSも、
「よくそんな事、ここで言うな~・・・引くわ・・・。」
と、驚いていたのだが・・・。
もう何でもアリなんやな・・・。
何で、そんなに必死なのか・・・。
私たち大人チームの前だけなら、私たちが、胸やけすればいいだけ
の話だったのだが・・・。
Mの顕示欲は、もはや、真夏の積乱雲の如く、ムクムクと膨れあがり
新人達はおろか、取引先のベンダーさん達にすら、遠慮しない
状態へと陥っていた。
ある展示会でのこと。
着物をまだ、着つけていなかったMは、
「所長~、着物着させてくださぁ~~~い。」と大声で
叫びながら、Sを探していた。
それを聞いていた、着つけのプロの女性が、
「何いってるの、はしたない!男の人に着つけてもらう
だなんて。」
「こっちいらっしゃい。着せてあげるわ。」
と、Mの手を引いて、お帳場へと連れて行こうとしたのだが
「私、所長がいいんですぅ~、所長に着せて貰いたいんですぅ。」
と言いながら、着物一式を持って、会場の真ん中辺りで、準備
していたSの元へ、走り寄って行った。
Sは、少々呆れながらも、「仕方ないな~、着せてあげるよ」
と言ったのだが、まだ、洋服のままで、襦袢すら着てないM
を見て、「おいおい、ここでストリップでもやる気か!?」
と、さすがにあきれ顔。
額に血管が浮かび上がって、怒り心頭な様子の、着付けの先生が
「こっち、いらっしゃい!」と
半ば、強引に、Mの手を引いて、お帳場へと連れ去っていった。
中で、着つけて行きなさい!と、着つけの先生に、再度説得
されていたようだったが、襦袢を着せて貰うやいなや、Mは
着物を、襦袢の上から引っかけて、すぐに、Sの元へと
走り寄ってきた。
「所長~、着させてくださ~~~い。」
「全く、しょうがねえなぁ~。」
そう言いながらも、まんざらでもない表情で、着付けを
請け負うS。
しかし、そこは会場のど真ん中。
SとMを真ん中にして、新人達も、取引先ベンダーさんも、
着つけの先生も、信販会社の女性たちも、取り巻くようにして
二人の、エロス漂う、安っぽいお不倫劇場を見せられているのだ。
明らかに軽蔑して睨む顔。
ニヤニヤ笑っている顔。
嫉妬で目の奥の炎が燃えている顔。
見てはいけないものを見せられて、目のやり場に困っている顔。
そんな十人十色の顔が、二人を遠巻きに見つめていた。
一体、何なんだ! コレは!
これから、お客様を迎えるにあたって、皆、緊張し、頑張ろうと
準備をしている最中だというのに・・・・。
何のために、私たちは、こんなものを見せられている訳????
(せめて、お不倫のイチャイチャタイムは、場外でやってくれ!)
当の二人は、そんな大勢の、声なき雑音など、気にする素振りは
全く無かったのだが・・・。
(このシチュエーション、痛快TVスカッとジャパンで、再現して
残念ながら、その時には、誰も神対応できる人は、出現
しませんでした。
さすがの、冷徹おばはんの私も、呆れかえって、
嫌味の一つも言えませんでしたわ。
厚顔無恥に付ける薬など、どこにも売ってない!
そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㉗
奥さんと子どもさんが、来福する少し前、Sは、
久しぶりに会う家族の為、家族孝行よろしく
色々、プランを練っていたようだった。
「ねえ、瑠璃さん、子どもが、楽しく遊べる場所とか
ないかな~。」
「そうですね、お子さんが、思いっきり公園とかで、
体を動かして、遊具で遊びたいなら、博多の森(東平尾公園)とか
いいかもですね~。長い滑り台とか、遊具もありますし。」
「そこって遠いの?」
「そうですね、ちょっと車ないと不便ですね・・・。」
「じゃ、もっと近場で・・・。」
「だったら、観覧車とかどうですか?」
「アジア一大きい観覧車と、小ぶりな観覧車二つあって、
眺めもいいですし、海沿いで、風が気持ちいいんですよ。
それにレストランとか、ちょっとした商業施設もありますよ。」
「いいね~。」
「そこどこ? 近い?」
「マリノアシティって言うんですけど、地下鉄の最寄り駅から
確か、バスが出てたと思いますよ。」
「あ、良かったら、観覧車の無料チケット頂いたんで、
使いますか?」
「え、本当? いいの?」
「はい、もう一回乗っちゃったんで、高所恐怖症の私としては
もう、お腹いっぱいですから、ご遠慮なくどうぞ!」
私は、財布に、入れっぱなしにしていたチケットを、手渡した。
「サンキュ~助かるわ。」
「よく、そこ行くの?」
「まあ、家から近いので、時々、買い物とか行きますね。」
「家、近いんだ・・・。」
「まあ、ギリギリ歩けなくはないかな・・・って感じですが。」
「戸建て?それともマンション?」
「マンションですよ。」
「海近物件で、すごく気に入ってます。」
「建物何色?」
「茶色ですけど・・・何か・・・。」
「いや、別に・・・。」
Sの知らないところで、色々な思惑が揺れているのも知らず
「以外に子煩悩」という、一面を覗かせつつ、能天気な
までに、浮かれた調子を見せるSに、私は、複雑な思いが
湧いた。
なんで、家族別々に住むことになったんだろう・・・。
まだ、お子さんは、小学校就学前だし、一緒に家族揃って
福岡に来ていれば、波風立つことも、なかったかも
知れないのに・・・・。
つかの間の家族ランデブーが終わり、何事も無かったかのように
また、いつもの日常が戻ってきた。
「瑠璃さん、この間はありがとう。坊主達、物凄く喜んだよ。」
「そうですか、それは良かったです。お役に立てて・・・。」
「ゆっくり出来ましたか?」
「うん、あそこ気持ちいいよね~、海も綺麗だし、風も気持ち
良いし、あんなとこ住めたらいいよね。」
「マリノアシティから、ちょっと歩けば、住宅街ありますよ。」
「お子さんも、小さいから、ご一緒に引っ越して、住んだら
楽しいと思いますよ。」
「うん・・・でも、奥さんが転勤、嫌がっててね・・・。」
「そうですか・・・、お子さんが小さいうちは、できれば
一緒に暮らした方が、いいと思いますけどね・・・。」
「それにしても、良い景色だったな・・・観覧車からの眺め。」
「思わず・・・・探しちゃったよ。」
「・・・・何を?」
「近くに住んでる・・・・って言ってたからさ・・・。」
「え・・・ああ・・・そうですか・・・。」
「まあ、解んなかったけどね・・・。」
そりゃそうだ。
あの辺り、360度 マンションは一杯あるし、
茶色のマンションだって、珍しくない。
しかし、その科白、もしかして、
私への、お礼の積りなのかしら?
ゴメンね、ときめかなくて。(爆)