小さき森を愛する花  瑠璃唐草物語

瑠璃唐草の別名はネモフィラ。ギリシャ語のNemophila は、ギリシャ語の 「nemos(小さな森) + phileo(愛する)」が 語源とされています。そんな愛らしくも健気な花のように生きていきたいと思います。

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㉝

ある日の午後、私は、Sから呼び出された。

 

「ちょっと瑠璃さん、入り口のドアストッパーなんだけど

どのタイプにするか決めたいんで、ちょっと見てくれる?」

 

「え、ドアストッパーですか? 所長の使い安いタイプで

決めて頂いていいと思いますけど・・・。」

 

「まあ、そう言わず、ちょっと、こっちに来て、実際に

見てみてよ。」

 

私は、Sの後について、入り口のドアの外側に立った。

 

「やっぱりさ、この一本足タイプだとさ、荷物を運ぶとき

ドアの重さを支えきれずに、動く可能性があるから、もっと

しっかりした、こっちのタイプがいいよね?」

Sが、しゃがみ込んで、ドアの前に座って、カタログを見て

いたので、私も、同じ体制でしゃがみ、カタログを除き込んだ。

 

「そうですね、そちらの方が、安定感があると思います。」

「じゃ、こっちにするか・・。」

 

わざわざ、私に見せるほどの事でもないのに・・・と思いつつ

立ち上がろうとしたのだが、それを遮るかのように、

Sは話し続けた。

 

「ところでさ・・・・まあ、色々噂というか、色んな誤解が

あるんだと思うんだけどさ・・・・。」

 

その一言で、私は、例の一件だと察した。

 

「何のことでしょうか?」

 

「何か、俺がさ~、色々良からぬことをしているって噂が

立っててさ~。」

 

「へぇ~そうなんですか~、噂なんですか~。」

「火のないところに、煙は立たずって言いますけどねぇ~。」

 

「いや、誰かが、火のない所で、煙モクモク出している

みたいなんだよね~。」

「あら、誰でしょ?」

「いや、他に居ないでしょ?」

 

「私、別に、煙モクモク焚いてませんよ。むしろ煙が

小火にならないように、火消ししている積りですけど。」

 

「噂に尾ひれが、ついちゃってさ、大げさになって、困ってる

んだよ。」

「あちこちの所長から、怒られるし、部長には睨まれるし。」

 

「尾ひれ? 尾ひれの部分で、どこでしょうか?」

「所長が、信販会社の既婚女性を口説いて、意に添わなかった

から、「辞めさせる」と脅して、ご本人がトイレで、泣いて

しまわれた・・・って部分でしょうか?」

 

「これ、尾ひれでなくて、事実ですよね?」

 

「いや、食事には誘ったよ。確かに・・・。でも実際デートも

した訳じゃないんだし、色々詮索されるのはさ・・・。」

 

「所長、事の重大さ解ってます?」

 

「デート云々じゃなくて、嫌がる女性に、職権乱用して

自分の思い通りにしなければ、辞めさせるって言っている

んですよ。」

 

「これ、立派なセクハラで、パワハラですから!」

 

「きちんと、相手に謝って和解しないと、訴えられることも

あるし、既に、信販会社の上司に、事情が知れ渡っている

かも知れないんですよ。信販会社の方から、正式に通知が

来たら、社長にも知れてしまうかも知れないんですよ。

そうならないように、所長さんたちが、ストップかけて

くれようとしているんです。」

 

「いや、それが余計なことじゃないか~。」

「はぁ~!?」

 

私たちは、座った姿勢から、いつの間にか立ち上がり、

腕を組んだままで、お互いを睨み合って立っていた。

 

不穏な空気に、部屋の中で作業していた新人達が、いつの間にか

こちらを、チラチラと盗み見していた。

 

「痴話喧嘩?」

 

そんな声が、聞こえた。

 

(冗談じゃないぜ~~~~。何が痴話喧嘩だ!)

 

私は、急にバカらしくなり、踵を返した。

 

「とにかく、自重してくだいよ。」

「私は、もう知りませんからね!」

 

年下とは言え、パートのおばちゃんが、上司に正々堂々

楯突いた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㉜

仕事から、戻ると、食事の支度・片付け・お風呂・そして

子どもの世話が待っている。

 

一通り済ませると、私は、携帯電話を取り出した。

今日の一件は、事務のパートのおばちゃんが、簡単に

解決できる問題ではないからだ。

 

電話の相手は、同期の仙台支社の事務の女性。

彼女とは、当時、一度も会ったことは無かったが、入社した

時期が近かったこともあり、複雑で独自な会計処理の仕方や

システムの不具合の件で、お互い、相談することが多くなって

仲良くなったのだった。

結構、物理的距離は離れているけどね・・・。

 

「いや、もう聞いてよ~~~。」

「何々?」

「奴が、やらかしてくれたのよ~。」

「え~~~また? 女性関係かい!」

「それ以外無いでしょうよ・・・。」  "(-""-)"

 

仙台の彼女も、Sと短い間ではあったが、働いた経験があり

Sの女癖には、辟易させられた一人でもあった。

 

「で、何やらかしたの?」

「実はさ、信販の既婚女性に、お付き合い迫ってさ

振られ続けたもんだから、とうとう首にするって

恫喝しちゃってさ~。」

「え~~~もう、何・・・何やらかしてるのよ~。」

「でしょ~~~~。」

信販の先輩女子が怒ってさ、上司に報告して、会社

として断固抗議してもらう!って、もうレッドカード

状態なのよ~。」

 

「あいた~~~やらかしたね~。」

 

「うちに居た時はさ、こっちのレディさん、あっちの

レディさん(営業レディ)って、渡り鳥みたいに、渡り

歩いていたんだけどさ~。」

「とうとう取引先まで、手を出したか・・・。」

「まあね、美人なのよ~。色白さんで、細くて、儚げで。」

「ありゃ~ドストライクなのね。」

「でもさ、あまりに芸がない・・・そしてえげつない。」

「モテ男のメンツが廃るってか~。」

「どうしたらいいと思う?」

「私が何か言ったって、屁の河童、聞きやしないと

思うのよね。」

信販会社から、ねじ込まれる前に、先輩諸氏から、拳固

してもらう手はないかしら?」

「あ、うちの所長、ちょっとSより先輩だし、Sの女癖の

悪さも知ってるから、言って貰おうか?」

「うわ~お願いできる?」

「うん、言ってみるね。」

 

仙台の彼女の進言のお陰もあったのか、はたまた、昔っから

Sに対する反感があったのか、仙台の所長だけでなく、数名の

所長達が、本社の上司や、直接Sに苦言を呈してくれたよう

だった。

 

しかし、そのとばっちりが、後日、私の身に降りかかって

きたのだった。

 

 

 

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㉛

Mのあまりに、あざとい「愛人アピール」が、効きすぎたのか

Sが、新人女性達と、必要以上に親しくなれない雰囲気が

生まれつつあった。

 

まあ、大人チームとしては、変に、新人女性に手を出されて

ゴタゴタするよりは、多少目には余っても、Mが防波堤に

なってくれるのであれば、もう、致し方ない事として

目を瞑ろうと、考えるようになっていた。

 

しかし、それでは、Sの狩猟本能が満たされなかったらしい。

 

なにかとMの目を盗んでは、信販の美人派遣社員さんを

口説き落しにかかっていたのだ。

 

最初こそ、甘い言葉を、囁いていたものの、全く、相手に

されなかったSは、とうとう業を煮やし、あろうことか

その美人派遣社員さんに対して、

「デートしなければ、仕事から外す!」

などど、脅してしまったのだ。

 

何をしてるんだ、Sよ!

女性を脅すだなんて、ドンファンの名が泣くぞ~~~。

 

今まで、美人モデルさんやら、美人CAさんやら、周囲が

驚愕するほどの美人と、数多、浮名を流してきたというのに、

「恫喝」してまで、女性と付き合おうだなんて・・・・。

 

磨き上げてきた、ドンファンの手練手管は、

錆びついてしまったのか!?

 

ま、関東の女性は、比較的、雰囲気と、甘い言葉に

弱いのかも知れないけど・・・。

九州の女性は、一本芯が通ってますからね~。

そうそう簡単には、落とせませんけどね~。 (-。-)y-゜゜゜

 

しかし、一度「イエローカード」を突きつけていた、

同じ信販の先輩Tさんは、この事態に、烈火のごとく怒った。

Tさんの、この怒りには、多少、嫉妬も交じっていたかも

知れないが、それよりも、可愛い後輩が、パワハラ・セクハラ

の憂き目に遭っているのを見過ごせないという、

女の心意気の方が、今回は、勝っていたと思う。

 

いくら先輩と言えど、Tさんとて、雇われの身。

取引先のSを、怒らせてしまえば、Tさん自身が、首になる

危険もあるからだ。

 

Tさんは、私の居るお帳場にやってくると、鼻息も荒く

捲し立てた。

 

「もう、今日という今日は、絶対に許せないわ!」

「新人さん、トイレで泣いてたのよ~~~~。」

「いくら彼女が美人で、所長の好みだからってさ、人妻よ!」

「いや、人妻じゃなくったって、嫌だっていっているものを

仕事を干すとか、脅して、デートに持ち込もうとしてるのって

絶対、男として、人間として、許せないわ。」

 

「私ね、もう、自分が、この仕事から外されてもいいのよ。

決心したわ。今日、支社に戻ったら、今回の一件を、上司に

話して、会社として、しっかりと抗議してもらうわ!」

 

あまりの勢いに、狭いお帳場は、熱気が籠りそうだったが、

Tさんの怒りは、至極ご尤もな事なので、私は頷きながら、

傾聴した。

 

「確かに、目に余る酷い行為ね! 

もう、情けないわ・・・・同じ会社の人間として・・・。」

「たださ、もしTさんが、信販会社に戻って、この事を

上司に相談したとして、上司は、ちゃんと動いてくれる?」

信販会社さんだって、お得意さんには、色々言いづらいこと

もあるでしょ? ましてや、セクハラ・パワハラとなれば

言い逃れできないほどの証拠がないと、Sからの反撃に

遭うよ。」

「口説かれている時、録音するとかさ・・・証拠残さないと

Sは、意外と上に信頼されているから、不問に伏されるかも

知れないよ。」

 

「大丈夫よ、私、その口説き文句聞いていたもの。

証言できるわ。」

「そっか~、じゃ、一度、上の人に相談してみて。」

「私も、それとなく所長に、釘刺しておくから。」

「それでも、ダメだったら、もう仕方ないね・・・。」

 

やれやれ、Sの底なしの女癖の悪さのせいで、私は、

自分の仕事以外に、厄介な事を引き受けざるを得なかった。

 

しかし、ここは下手に動くと、Tさんや、新人さんの首が

飛ぶ危険性がある。

上司をものともしない、恐れ知らずの鉄仮面おばちゃんとて

軽々に動くのは、考え物だ。

 

私は、Sに直談判する前に、一計を案じた。

 

 

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㉚

連休明けの社内では、和気藹々と、呼子ドライブの話題が

盛り上がっていた。

 

呼子の烏賊、美味しかったね~。」

「初めて食べたけど、感動したわ~。」

「ビーチボールも、めっちゃ盛り上がったね!」

「何か、みんな、めいっぱい、はしゃいじゃったよね~。」

「ほんと、楽しかった~~~。」

 

「でも、一番、楽しんでて、若いな~って思ったのって・・・。」

 

「所長!」

 

異口同音に、答える新人達。

 

「そうそう、服着たまんま、海へ走り出したんで、びっくり

したよね~。」

「他の男子も、ちょっとつられて、海入ってたね~。」

「なんかさ~、高校生みたい。」

「青春(あおはる)かよ~~~~。」

 

新人たちの、そんな話を、楽し気に聞いていた、大人たちだったが、

おもむろに、営業のおばちゃんが、一言。

 

「まるで、青春群像みたいだったわよ!」

「若い教師と、その教え子みたいな・・・・。」

 

「え~っ、一緒に行ってたの?」

思わず、その事実に、びっくりした私。

 

「あなたも、来ればよかったのよ~。」

 

「そうね、次回があれば行くわ。」

 

そんな気もないくせに、一応忖度してみた。

 

「ところで、所長、皆が浜辺で、ビーチボールしていた時

誰かに、電話してませんでしたか?」

 

「誰に、電話してたんですか?」

 

「う・・・うん、ちょっとね・・・。」

 

Sは、急に、思わぬことを聞かれて、答えを濁した。

まさか、公衆電話で、電話を掛けている自分の姿を、

他人に見られていたとは、思わなかったのだろう。

 

「あ~~~、さては、ご家族が恋しくなって電話

してたんでしょ~。」

 

「まあ・・・・ね。」

 

私は、新人たちの、急な質問にも、Sのしどろもどろの

答えにも、顔色一つ変えずに、平静を装った。

 

やはり、Sだったか・・・・と、心の中では、「正解」

のピンポンが、鳴ってはいたのだが・・・。

 

Sが、私に、無言電話を掛けてた・・・なんて事実は、

新人達にも、会社の大人チームにも、ましてや、

当の、私本人には、絶対、知られたくない事だろうと、

思ったからだった。

 

どんな動機で、どんな思いで、電話を掛けていたとしても、

自分の弱みは、絶対、人には見せたくない!

 

これは、残念ながら、ドンファンなSと、冷徹おばちゃんの

私の、唯一の共通点だったかも知れない。

 

年齢も、性別も、生き方も、真逆な二人だったが、

ツインソウルたる「片鱗」が、この可愛げのない

 

「自分の弱みは、絶対、人には見せない」

 

というポリシーだったことに、私は、少しばかり

先に、気付いていたのかも知れない。

 

案外、私の方が、Sよりも一枚上手の「食えない奴」

だったかもね!(爆)

 

ドンファンな下心を隠しつつも、ちょっと危なげな色気を

漂わせつつも、ギリギリ「青春群像の若き教師」のままで

留まって居てくれさえすれば・・・・。

 

鉄仮面で、何を考えているか解らん、おばちゃん事務も、

きっと、Sの不都合な真実を、そっとオブラートに包んで

それなりに、有能な右腕で居られたに違いないのだが・・・。

 

あの頃の私は、そう、切に願っていた。

 

そんな願いが、すぐに絶望に変わってしまうとも知らずに・・・。

 

 

 

 

 

 

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㉙

季節は、夏になっていた。

夏の連休に、みんなで、どこかへ遊びに行こうという

計画が上がっていた。

 

「どこがいいかな~」

「やっぱり、夏だし、海がいいんじゃない?」

「綺麗な海、みた~~~い!」

 

「ねえ、呼子とかどうかな?」

呼子?」

「烏賊が、めっちゃ美味しいよ~。」

Mの提案に、皆賛成して、車で分乗して出かける事

になった。

「まず、人数よね。

車何台いるか、割り振りも必要だし。」

「私たち14人と、M先輩と、所長でしょ・・・。」

 

「瑠璃さん、一緒に行きませんか?」

 

新人の女の子が、私を誘ってくれた。

 

「う~ん、子どもいるから、行けないわ。」

「え~、一緒に連れてきたらいいじゃないですか?」

「でも、うちの子も、私も、車弱いのよね~。」

「え~~そうなんですか・・・。」

「でも、窓全開で走れば、大丈夫じゃないですか?」

 

「ところで、お子さんって、いま、お幾つなんですか?」

「小4よ。」

「男の子ですか、それとも女の子?」

「男の子よ。」

「うわ~逢ってみた~~い。」

「連れてきてくださいよ~。」

「顔見たい~~~。」

「可愛いですか?」

「どうかな・・・写真ならあるけど・・・。」

「え~~~見せて~~~見せて~~~。」

 

女の子たちが、こぞって、小4の息子の写真に群がった。

 

「いや~~~ん、めっちゃイケメンじゃないですか~。」

「うわ~可愛い~~~エプロンしてる~。」

「お料理手伝ってくれるんですか?」

「ああ、それね、親子料理教室へ行った時の写真なのよ。」

「へ~いいな~。」

「私、若かったら、付き合いたい~~~。」

「あははは」

「じゃ、うちの息子が成人するまで、待っててください」

「やだ~おばちゃんになっちゃうじゃん。笑」

 

ひとしきり、盛り上がったのだが、私は、呼子へのドライブ

への参加は、見送った。

若いお兄さんお姉さんと、遊べるのは、いい機会だったかも

しれないが、お調子者の息子が、何か、やらかしては

申し訳ないからね・・・。

 

単身赴任している夫と、仕事をしている私。

 

きっと、遊びたい盛りの息子が、日ごろのうっぷんを

晴らすべく、大はしゃぎするのが、目に見えるようだった。

 

何時ものように、息子と二人だけの休日。

日ごろ出来ない家事を片付け、お昼もすませて、リビングで

ゆったりとしていたその時、電話のベルが鳴った。

 

ファックス電話の表示版は、「公衆電話」と表示されていた。

「公衆電話?」

不思議に思いつつ、私は、受話器を取った。

 

「はい ●●です。」

 

しかし、返答はない。

 

「もしもし、●●ですけど・・・。」

 

やはり、返答はない。

 

受話器に耳を澄ましてみると、遠くに若い人の歓声が聞こえた。

 

ザア~~という波の音も、かすかに漏れ聞こえてくる。

 

電話の主は、相変わらず、息を殺して黙っていたが、

私には、それが誰であるか、もう解っていた。

 

声には、ならなかったが、受話器の向こうの相手の、重苦しい

言うに言えない「辛さ」みたいな感情が、回線を通して

私に伝わってくる気がしていた。

 

私は、無言で、電話の相手と向き合っていた。

何が言いたいのだろう・・・。

何が、そんなに辛いのだろうか・・・・と。

 

ふいに、遠くから、電話の主を呼ぶような声がして

電話は、プツリと切れた。

向こうは、気付いただろうか・・・・。

私が、電話の相手が、誰だかわかっていたことを・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㉘

結局、Mは、Sの家族が来福中、ぬけぬけと家にまで

押しかけ、逢いに行っていた事が、解った。

しかも、黙っていればいいものを、Mは、その事実を会社で

しかも、新人達が居る前で、喋ってしまった。

 

若い新入生に、Sを取られまいと、釘を刺したかった

のかも知れないが、それは、あまりに愚かな行動だった。

 

会社の大人チームは、Mの大胆不敵な行動に、呆れ、もう

付ける薬は無いな・・・と諦めていた。

 

「子どもたち、二人とも可愛くて、思わず、だっこ

しちゃいました~。

私、あの子たちなら、お母さんになれるかな~って。」

 

(おいおい、あんた、絶対、奥さんにばれてるって・・・。)

 

そんな痛い言動をする先輩なのに、新人後輩達は、あまりに

大人で、切なくなってしまう。

 

「うわ~会いに行ったんですか~、いいな~、私たちも

逢いたかったな~。所長、今度来られたら、絶対、私たち

にも、逢わせてくださいね~。」

 

「う・・うん、解ったよ。」

 

Mにとっては、前門の虎(新人美女軍団)、校門の狼(信販の美人派遣)

って状態で、油断できないから、必死なんだろうけど・・・。

 

いつもは見えてないけど、頭の上に、奥様という、巨象が居るのよ。

大人しく見えても、一旦、暴れると、虎も、狼も、蹴散らされるのよ。

ましてや、白〇〇なんて、一気に踏みつぶされるわよ。

だてに、ドンファンの奥様業を、何年もやってる訳じゃないんだから。

 

何だか、Sの奥さんの事が、他人事とは思えなくて、私も、

一度お会いして、本当の気持ちは、どうなのか、

聞いてみたい衝動に駆られていた。

 

夫の不倫に悩む、人妻同士、案外気があったりしてね!

 

Sが、赴任してすぐ、私に、奥様が住んでいる家の住所と

連絡先を、渡そうとしたことが、あったのだが・・・。

 

「え、渡して大丈夫ですか? 何かあったら、すぐ連絡

入れちゃいますよ~。」と、冗談を言ったら、

「あ、それもそうだな・・・。」って

すぐに、引っ込めた事が、あったっけ・・・。

余計な事言わないで、貰っておけば良かったよ。

 

そうすれば、もうちょっと、堅牢な防波堤になれた

かも知れないのに・・・。

 

奥さんに会ったことで、自信がついたのか、Mの行動は

もはや、誰にも止められないほどの、暴走列車と

化していた。

 

お酒の席で、Sの横にべったりと寄り添い、

「私、肉付きがいいんで、抱き心地がいいんですよ~。」

って、体をくねらしてみたり・・・。

 

(何のアピールやねん・・・)

 

これには、さすがのSも、

「よくそんな事、ここで言うな~・・・引くわ・・・。」

と、驚いていたのだが・・・。

 

もう何でもアリなんやな・・・。

何で、そんなに必死なのか・・・。

 

私たち大人チームの前だけなら、私たちが、胸やけすればいいだけ

の話だったのだが・・・。

 

Mの顕示欲は、もはや、真夏の積乱雲の如く、ムクムクと膨れあがり

新人達はおろか、取引先のベンダーさん達にすら、遠慮しない

状態へと陥っていた。

 

ある展示会でのこと。

 

着物をまだ、着つけていなかったMは、

「所長~、着物着させてくださぁ~~~い。」と大声で

叫びながら、Sを探していた。

それを聞いていた、着つけのプロの女性が、

「何いってるの、はしたない!男の人に着つけてもらう

だなんて。」

「こっちいらっしゃい。着せてあげるわ。」

と、Mの手を引いて、お帳場へと連れて行こうとしたのだが

「私、所長がいいんですぅ~、所長に着せて貰いたいんですぅ。」

と言いながら、着物一式を持って、会場の真ん中辺りで、準備

していたSの元へ、走り寄って行った。

 

Sは、少々呆れながらも、「仕方ないな~、着せてあげるよ」

と言ったのだが、まだ、洋服のままで、襦袢すら着てないM

を見て、「おいおい、ここでストリップでもやる気か!?」

と、さすがにあきれ顔。

 

額に血管が浮かび上がって、怒り心頭な様子の、着付けの先生が

「こっち、いらっしゃい!」と

半ば、強引に、Mの手を引いて、お帳場へと連れ去っていった。

中で、着つけて行きなさい!と、着つけの先生に、再度説得

されていたようだったが、襦袢を着せて貰うやいなや、Mは

着物を、襦袢の上から引っかけて、すぐに、Sの元へと

走り寄ってきた。

 

「所長~、着させてくださ~~~い。」

「全く、しょうがねえなぁ~。」

そう言いながらも、まんざらでもない表情で、着付けを

請け負うS。

 

しかし、そこは会場のど真ん中。

 

SとMを真ん中にして、新人達も、取引先ベンダーさんも、

着つけの先生も、信販会社の女性たちも、取り巻くようにして

二人の、エロス漂う、安っぽいお不倫劇場を見せられているのだ。

 

明らかに軽蔑して睨む顔。

ニヤニヤ笑っている顔。

嫉妬で目の奥の炎が燃えている顔。

見てはいけないものを見せられて、目のやり場に困っている顔。

 

そんな十人十色の顔が、二人を遠巻きに見つめていた。

 

一体、何なんだ! コレは!

 

これから、お客様を迎えるにあたって、皆、緊張し、頑張ろうと

準備をしている最中だというのに・・・・。

 

何のために、私たちは、こんなものを見せられている訳????

 

(せめて、お不倫のイチャイチャタイムは、場外でやってくれ!)

 

当の二人は、そんな大勢の、声なき雑音など、気にする素振りは

全く無かったのだが・・・。

 

(このシチュエーション、痛快TVスカッとジャパンで、再現して

貰って、誰かに、神対応大岡裁きしてもらいたいわ~~~。)

 

残念ながら、その時には、誰も神対応できる人は、出現

しませんでした。

 

さすがの、冷徹おばはんの私も、呆れかえって、

嫌味の一つも言えませんでしたわ。

 

厚顔無恥に付ける薬など、どこにも売ってない!

 

 

 

 

 

 

 

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㉗

奥さんと子どもさんが、来福する少し前、Sは、

久しぶりに会う家族の為、家族孝行よろしく

色々、プランを練っていたようだった。

 

「ねえ、瑠璃さん、子どもが、楽しく遊べる場所とか

ないかな~。」

「そうですね、お子さんが、思いっきり公園とかで、

体を動かして、遊具で遊びたいなら、博多の森東平尾公園)とか

いいかもですね~。長い滑り台とか、遊具もありますし。」

「そこって遠いの?」

「そうですね、ちょっと車ないと不便ですね・・・。」

 

「じゃ、もっと近場で・・・。」

「だったら、観覧車とかどうですか?」

「アジア一大きい観覧車と、小ぶりな観覧車二つあって、

眺めもいいですし、海沿いで、風が気持ちいいんですよ。

それにレストランとか、ちょっとした商業施設もありますよ。」

 

「いいね~。」

「そこどこ? 近い?」

「マリノアシティって言うんですけど、地下鉄の最寄り駅から

確か、バスが出てたと思いますよ。」

「あ、良かったら、観覧車の無料チケット頂いたんで、

使いますか?」

「え、本当? いいの?」

「はい、もう一回乗っちゃったんで、高所恐怖症の私としては

もう、お腹いっぱいですから、ご遠慮なくどうぞ!」

私は、財布に、入れっぱなしにしていたチケットを、手渡した。

 

「サンキュ~助かるわ。」

「よく、そこ行くの?」

「まあ、家から近いので、時々、買い物とか行きますね。」

 

「家、近いんだ・・・。」

「まあ、ギリギリ歩けなくはないかな・・・って感じですが。」

「戸建て?それともマンション?」

「マンションですよ。」

「海近物件で、すごく気に入ってます。」

「建物何色?」

「茶色ですけど・・・何か・・・。」

「いや、別に・・・。」

 

Sの知らないところで、色々な思惑が揺れているのも知らず

「以外に子煩悩」という、一面を覗かせつつ、能天気な

までに、浮かれた調子を見せるSに、私は、複雑な思いが

湧いた。

 

なんで、家族別々に住むことになったんだろう・・・。

まだ、お子さんは、小学校就学前だし、一緒に家族揃って

福岡に来ていれば、波風立つことも、なかったかも

知れないのに・・・・。

 

つかの間の家族ランデブーが終わり、何事も無かったかのように

また、いつもの日常が戻ってきた。

 

「瑠璃さん、この間はありがとう。坊主達、物凄く喜んだよ。」

「そうですか、それは良かったです。お役に立てて・・・。」

「ゆっくり出来ましたか?」

「うん、あそこ気持ちいいよね~、海も綺麗だし、風も気持ち

良いし、あんなとこ住めたらいいよね。」

 

「マリノアシティから、ちょっと歩けば、住宅街ありますよ。」

「お子さんも、小さいから、ご一緒に引っ越して、住んだら

楽しいと思いますよ。」

 

「うん・・・でも、奥さんが転勤、嫌がっててね・・・。」

「そうですか・・・、お子さんが小さいうちは、できれば

一緒に暮らした方が、いいと思いますけどね・・・。」

 

「それにしても、良い景色だったな・・・観覧車からの眺め。」

 

 

「思わず・・・・探しちゃったよ。」

 

「・・・・何を?」

 

「近くに住んでる・・・・って言ってたからさ・・・。」

 

「え・・・ああ・・・そうですか・・・。」

 

「まあ、解んなかったけどね・・・。」

 

そりゃそうだ。

あの辺り、360度 マンションは一杯あるし、

茶色のマンションだって、珍しくない。

 

しかし、その科白、もしかして、

私への、お礼の積りなのかしら?

 

ゴメンね、ときめかなくて。(爆)