そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その④
Sは、直前まで北関東の、とある県の、営業所長をしていた。
九州の営業所に赴任するに当たって、取りあえず
今回は、下見に来たということだったらしい。
住むところも決めねばならないし、色々と準備が
必要なので、大体の雰囲気を掴んでおきたかったのだろう。
福岡は初めてという事だったので、とにかく、歓迎会を
しようという事になった。
しかし、急なので、お店の予約が取れない。
営業所の有志数人で、事務所から、ほど近い飲食店街を
さすらい、一軒の店へと入った。
その店の外観は、いまにも潰れんばかりの、寒々とした
素っ気ない外観で、私たちは、仕方なく、そこへ入ったのだが
意外にも、そこは「知る人ぞ知る人気店」だったらしい。
昭和レトロな雰囲気が漂う、その店内には、女将さんと若い
女性が働いていた。
その若い女性は、「今、青森から出てきました」って雰囲気を
漂わせる、りんご頬っぺの、素朴な女性だった。
私達女性陣は、「今時、あんな素朴な感じの人、珍しいね。」と
思わず、小声で囁きあっていた。
女将さんに勧められるままに、私たちは着席し、目の前には
大きなガスコンロが、運ばれてきた。
ここは、引退した力士が営む、ちゃんこ屋だったのだ。
鍋が煮えるまでの、お通し代わりに、自家製のキムチが
運ばれてきた。
「辛いのかしら・・・だったら苦手だわ~。」
そう言いながら、恐る恐る、箸を伸ばす女性陣。
「うわ~~、想像以上に辛いわぁ~。」
私も、食べてみた。
確かに、口から火を噴きそうな感じだ。
しかし、それも、ほんの一瞬で通り過ぎ、口の中には
旨みだけが残った。
辛ささえも、清涼感に感じる不思議。
ここのキムチ、辛いけど、癖になる味だったのだ。
辛い物苦手な私なのに、箸が止まらなくなった。
「女将さん~、コレお代わりできる?」
誰かが、追加注文してくれた。
乾杯のために、コップや、ビールを運んでくる、純朴な
女性。
すると突然、Sが、彼女に話しかけた。
しかし、Sが発した言葉は、何故か日本語ではなかった。
「は?今何て・・・・?」
ポカンとなる私達。
純朴な彼女は、Sの声が聞こえなかったのか、何の
反応も示さなかった。
すると間髪入れず、Sは、先ほどとは、また別の言語で
何やら話しかけた。
すると先ほどの純朴な女性は、Sの方を向いて、一言
二言、返事を返した。
「どういう事? あの人、日本人じゃなかったの?」
ざわつく私達。
すると、女将さんが、「実は、この子、モンゴル出身
なんですよ~。まだ、こっちに出てきて間もないから
日本語がよく話せなくって・・・。」
私たちは、一斉に、Sの方を凝視した。
「何で、日本人じゃないって解ったんですか?」
「そもそも、日本人じゃなかったとして、どこの
国の人かなんて、どうして見当がついたんですか?」
私たちは、訝し気に、Sの発言を待った。
しかし、Sは、飄々としてもので、
「いや・・・何となく・・・・。」
と言ったっきり、何事もなかったかのように
キムチを頬張り始めた。
私と、最年長のおばちゃんは、互いに顔を見合わせ、
「こりゃ、相当な強者みたいね・・・。」と
いった表情で、目くばせし合った。
一言も発しなかった素朴な女性を、ほんの何秒か観察して
日本人でないと見抜き、おそらく、先に中国語で話しかけ
返答がないと解るや、モンゴル語で、話しかけたS。
語学力も、凄いと言えば、凄いに違いないが・・・。
その女性に対する観察力・・・洞察力・・・。
いや、動物的本能のような識別能力たるや、常人では
考えられないスペックだった。
そう、Sの処世術の一つは、この女性に対する嗅覚の
鋭さにあったのだ。
そして、その能力は、出世の為だけではなく、彼自身の
尽きせぬ女性への探究心、そして、ライフワークでもある
「女性遍歴」の為に、いかんなく発揮されていくのである。
私が、彼に最初に感じた「ヤバイ」は、まさに「コレ」
だったに違いない!
まさに、これから先、私は、この「ヤバイ」と感じた渦に
否応なく、巻き込まれてしまう運命だったのだ。