小さき森を愛する花  瑠璃唐草物語

瑠璃唐草の別名はネモフィラ。ギリシャ語のNemophila は、ギリシャ語の 「nemos(小さな森) + phileo(愛する)」が 語源とされています。そんな愛らしくも健気な花のように生きていきたいと思います。

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その④

Sは、直前まで北関東の、とある県の、営業所長をしていた。

九州の営業所に赴任するに当たって、取りあえず

今回は、下見に来たということだったらしい。

 

住むところも決めねばならないし、色々と準備が

必要なので、大体の雰囲気を掴んでおきたかったのだろう。

 

福岡は初めてという事だったので、とにかく、歓迎会を

しようという事になった。

しかし、急なので、お店の予約が取れない。

営業所の有志数人で、事務所から、ほど近い飲食店街を

さすらい、一軒の店へと入った。

 

その店の外観は、いまにも潰れんばかりの、寒々とした

素っ気ない外観で、私たちは、仕方なく、そこへ入ったのだが

意外にも、そこは「知る人ぞ知る人気店」だったらしい。

 

昭和レトロな雰囲気が漂う、その店内には、女将さんと若い

女性が働いていた。

その若い女性は、「今、青森から出てきました」って雰囲気を

漂わせる、りんご頬っぺの、素朴な女性だった。

私達女性陣は、「今時、あんな素朴な感じの人、珍しいね。」と

思わず、小声で囁きあっていた。

 

女将さんに勧められるままに、私たちは着席し、目の前には

大きなガスコンロが、運ばれてきた。

ここは、引退した力士が営む、ちゃんこ屋だったのだ。

 

鍋が煮えるまでの、お通し代わりに、自家製のキムチが

運ばれてきた。

 

「辛いのかしら・・・だったら苦手だわ~。」

そう言いながら、恐る恐る、箸を伸ばす女性陣。

「うわ~~、想像以上に辛いわぁ~。」

 

私も、食べてみた。

確かに、口から火を噴きそうな感じだ。

しかし、それも、ほんの一瞬で通り過ぎ、口の中には

旨みだけが残った。

辛ささえも、清涼感に感じる不思議。

ここのキムチ、辛いけど、癖になる味だったのだ。

辛い物苦手な私なのに、箸が止まらなくなった。

 

「女将さん~、コレお代わりできる?」

誰かが、追加注文してくれた。

 

乾杯のために、コップや、ビールを運んでくる、純朴な

女性。

 

すると突然、Sが、彼女に話しかけた。

 

しかし、Sが発した言葉は、何故か日本語ではなかった。

 

「は?今何て・・・・?」

 

ポカンとなる私達。

純朴な彼女は、Sの声が聞こえなかったのか、何の

反応も示さなかった。

 

すると間髪入れず、Sは、先ほどとは、また別の言語で

何やら話しかけた。

 

すると先ほどの純朴な女性は、Sの方を向いて、一言

二言、返事を返した。

 

「どういう事? あの人、日本人じゃなかったの?」

ざわつく私達。

 

すると、女将さんが、「実は、この子、モンゴル出身

なんですよ~。まだ、こっちに出てきて間もないから

日本語がよく話せなくって・・・。」

 

私たちは、一斉に、Sの方を凝視した。

 

「何で、日本人じゃないって解ったんですか?」

「そもそも、日本人じゃなかったとして、どこの

国の人かなんて、どうして見当がついたんですか?」

 

私たちは、訝し気に、Sの発言を待った。

しかし、Sは、飄々としてもので、

 

「いや・・・何となく・・・・。」

 

と言ったっきり、何事もなかったかのように

キムチを頬張り始めた。

 

私と、最年長のおばちゃんは、互いに顔を見合わせ、

 

「こりゃ、相当な強者みたいね・・・。」と

いった表情で、目くばせし合った。

 

一言も発しなかった素朴な女性を、ほんの何秒か観察して

日本人でないと見抜き、おそらく、先に中国語で話しかけ

返答がないと解るや、モンゴル語で、話しかけたS。

 

語学力も、凄いと言えば、凄いに違いないが・・・。

その女性に対する観察力・・・洞察力・・・。

いや、動物的本能のような識別能力たるや、常人では

考えられないスペックだった。

 

そう、Sの処世術の一つは、この女性に対する嗅覚の

鋭さにあったのだ。

そして、その能力は、出世の為だけではなく、彼自身の

尽きせぬ女性への探究心、そして、ライフワークでもある

「女性遍歴」の為に、いかんなく発揮されていくのである。

 

私が、彼に最初に感じた「ヤバイ」は、まさに「コレ」

だったに違いない!

 

まさに、これから先、私は、この「ヤバイ」と感じた渦に

否応なく、巻き込まれてしまう運命だったのだ。