小さき森を愛する花  瑠璃唐草物語

瑠璃唐草の別名はネモフィラ。ギリシャ語のNemophila は、ギリシャ語の 「nemos(小さな森) + phileo(愛する)」が 語源とされています。そんな愛らしくも健気な花のように生きていきたいと思います。

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その⑮

俗な言い方をすると、「現地妻」という座を手に入れた

Mだったが、当のご本人は、その座が、決して安泰ではない

ということに、薄々、気づいてはいたようだった。

 

なにせ、4月になれば、若くてピチピチの二十代女性が、七人も

見山するのだ!

彼女達に、今の座を奪われてなるか・・・というような焦りを

Mは、少なからず、私達にも、感じさせてしまうのだ。

 

本来なら、何の警戒対象ですらない筈の、オバちゃんズの私

にすら、Mの警戒心は向けられることもあった。

 

営業であったMは、どうしても外勤になってしまう。

多くの営業が出払ってしまった後は、否応なくSと事務の私

だけが、取り残されてしまうのだ。

 

別段、仕事話と、少しばかりの雑談しか、交わす言葉は

無いのだが・・・。

Mにとっては、それすら、気になって仕方なかったのだろう。

 

彼女は、1~2時間おきに、何か用事を作って、チョコチョコと

事務所に戻って来ていた。

一度営業に出たら、3~4時間は戻らず、順序だてて

ルートを回った方が、効率的なのだが・・・。

 

一度など、事務所の入り口のドアの後ろに佇んで、

私とMの会話を、立ち聞きしていたことすらあった。

 

「どんなに上手に隠れても、大きなシッポが見えてるよ~」♪

 

何だか、そんなMが、憐れでもあり、こっけいでもあった。

 

妻も、愛人も、結局、心が晴れる日が無いのよね・・・きっと。

Sという、とんでもドンファンに関わった女性は、修羅の日々を

送ることになるのだ。

 

そんな、修羅の日々の証拠のように、Sの携帯のコールは、

就業中も、鳴りやむことがなかった。

「所長、携帯鳴ってますよ。」と私が促しても、Sは、頑なに

電話に出ることが無かった。

 

さりとて、電源を切る訳でも無く、コール音は、相手の執念の

数だけ、延々と鳴ることもあったのだ。

 

見かねて、「どうして出ないんですか?」と、思い切って

尋ねてみたことがあった。

「いや・・・相手が解ってるからさ・・・出ないんだ。」

 

何だか、訳の分からない事を言うSだったが・・・。

 

それは、仮初の恋、一夜の情事、ほんの乗りのフィジカルな関係

と、Sが次々と女性に手を出し、挙句の果てに、たいして別れ話も

せぬまま、相手を放置してきたから、こういう事態に陥って

いるのだった。

 

せめて、別れ話ぐらい、きちんと相手に向き合ってしていれば

ここまで、嵐のようなコール音は、響くまい。

 

「いっそ、着信拒否にしたら、如何ですか?」

そんな見透かしたような私の提案に、Sは、「いや・・・大丈夫」

と、短く答えるだけだった。

 

別れベタな奴は、ドンファンを名乗る資格ないな!

相手に嫌われて、振られるのが、一番の別れ方よ。

 

そんな私の冷酷な「心の呟き」を、Sは、知る由も無かった。