そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その⑮
俗な言い方をすると、「現地妻」という座を手に入れた
Mだったが、当のご本人は、その座が、決して安泰ではない
ということに、薄々、気づいてはいたようだった。
なにせ、4月になれば、若くてピチピチの二十代女性が、七人も
見山するのだ!
彼女達に、今の座を奪われてなるか・・・というような焦りを
Mは、少なからず、私達にも、感じさせてしまうのだ。
本来なら、何の警戒対象ですらない筈の、オバちゃんズの私
にすら、Mの警戒心は向けられることもあった。
営業であったMは、どうしても外勤になってしまう。
多くの営業が出払ってしまった後は、否応なくSと事務の私
だけが、取り残されてしまうのだ。
別段、仕事話と、少しばかりの雑談しか、交わす言葉は
無いのだが・・・。
Mにとっては、それすら、気になって仕方なかったのだろう。
彼女は、1~2時間おきに、何か用事を作って、チョコチョコと
事務所に戻って来ていた。
一度営業に出たら、3~4時間は戻らず、順序だてて
ルートを回った方が、効率的なのだが・・・。
一度など、事務所の入り口のドアの後ろに佇んで、
私とMの会話を、立ち聞きしていたことすらあった。
「どんなに上手に隠れても、大きなシッポが見えてるよ~」♪
何だか、そんなMが、憐れでもあり、こっけいでもあった。
妻も、愛人も、結局、心が晴れる日が無いのよね・・・きっと。
Sという、とんでもドンファンに関わった女性は、修羅の日々を
送ることになるのだ。
そんな、修羅の日々の証拠のように、Sの携帯のコールは、
就業中も、鳴りやむことがなかった。
「所長、携帯鳴ってますよ。」と私が促しても、Sは、頑なに
電話に出ることが無かった。
さりとて、電源を切る訳でも無く、コール音は、相手の執念の
数だけ、延々と鳴ることもあったのだ。
見かねて、「どうして出ないんですか?」と、思い切って
尋ねてみたことがあった。
「いや・・・相手が解ってるからさ・・・出ないんだ。」
何だか、訳の分からない事を言うSだったが・・・。
それは、仮初の恋、一夜の情事、ほんの乗りのフィジカルな関係
と、Sが次々と女性に手を出し、挙句の果てに、たいして別れ話も
せぬまま、相手を放置してきたから、こういう事態に陥って
いるのだった。
せめて、別れ話ぐらい、きちんと相手に向き合ってしていれば
ここまで、嵐のようなコール音は、響くまい。
「いっそ、着信拒否にしたら、如何ですか?」
そんな見透かしたような私の提案に、Sは、「いや・・・大丈夫」
と、短く答えるだけだった。
別れベタな奴は、ドンファンを名乗る資格ないな!
相手に嫌われて、振られるのが、一番の別れ方よ。
そんな私の冷酷な「心の呟き」を、Sは、知る由も無かった。