小さき森を愛する花  瑠璃唐草物語

瑠璃唐草の別名はネモフィラ。ギリシャ語のNemophila は、ギリシャ語の 「nemos(小さな森) + phileo(愛する)」が 語源とされています。そんな愛らしくも健気な花のように生きていきたいと思います。

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その⑯

4月に、新入生が、男女それぞれ7名、合計14名も

入社してくるということで、現在の事務所では、

とても手狭になってしまう。

 

今の事務所に越してから、まだ半年も経たない状況

だったが、Sの方針で、4月に転居することとなった。

解約申し入れを、ビルのオーナーにしたところ、

烈火のごとく抗議されてしまった。

 

オーナーにしてみれば、一部上場の会社が、ビルに入り

安定した家賃が入るとばかり思っていたのに、一年どころか

半年で出ていくなんて、想像できなかったのだろう。

 

兎に角、平謝りし、撤去費用などは、こちらで持ちますと

誠心誠意、言葉を尽くした。

しかし、撤去する当日まで、オーナーのボヤキは、

止まらなかった。

 

「オタクみたいな、一部上場の会社がやる事じゃないよ!」

 

そんな捨て台詞も、甘んじて受け取った。

当のSは、4月の新入生の事で、頭が一杯なのか、ビルの

オーナーの言葉など、全く意に介していないようだった。

 

3月の間だけ、新人さんは、研修という名目で、二週間ほど

古い事務所で我慢してもらうことになった。

 

新人の男女は、どの子も、明るくて、素直で、すれっからしの

オバちゃん軍団に、右往左往させられてきた、私にとっては、

眩しすぎる存在だった。

女の子は、おしなべて、皆美人だ。

(顔で選んだね・・・)と思ったくらいである。

学歴も高い。

九大、横浜国立大、長崎大と、国立の大学出身者も

多かった。

Sと言えば、すっかり新入生の、よき指導者の「顔」を彼らに

見せており、まさに上っ面だけは、素晴らしい上司に見えていた

ことだろう。

 

はいはい、その「良き上司」の仮面、脱がないでくださいよ!

思わず、私は、そう願わずにはいられなかった。

 

尊敬される、ちょっと素敵なお兄様・・・そのままで居てくれれば

Mとの不倫劇場を、場外でやってくれれば、私達大人チームは、

見て、見ないふりをすることができるのだから・・・。

 

そんな無理な願いが、叶わぬことは、私は、誰よりも解っていた

筈なのに・・・。

 

 青春群像みたいな、若き教師と生徒達の、生き生きとした

笑顔に、つい期待してしまうのだった。

実際、研修の手腕は、Sの最大の長所とも思えるぐらい、

手際も良く、きちんと計算されたものだった。

決して、堅苦しかったり、体育会系にありがちな

ド根性丸出しの、営業スタイルの為の鍛え方でもなかった。

適度に、笑いを交えつつ、時には、鋭い指摘もしつつ、

14名の男女を導いていく姿には、辛口の私も絶賛するしか

なかったくらいだ。

14名の新入生も、すっかり、新しい、若々しい上司に、心

奪われているのが、読み取れた。

 

ああ、ここから、Sの正体を、どれだけ隠していけるのか・・・。

Sの毒牙に掛からぬよう、どうやって、あの娘たちを守って

いけるのか・・・。

まるで、母親になったような気持ちで、私は、思いを

廻らせていた。

若いと言っても、二十歳過ぎた大人だ。

個人の問題に、ヅカヅカと土足で、介入する訳には

いかないのだ。

しかし、Sは、見た目は若いけど、こと色恋に関しては、

老練な策士なのだ。

二十歳そこそこの女子に、それが見破れるかどうか・・・。

 

「とうとう、その時が来ちゃったね・・・。」

私は、もう一人の、オバちゃんと、決意を新にしていた。

「綺麗な子ばかりよね~。」

もう一人のオバちゃんも、心配していた。

 

取りあえず、やれるだけの事はやろうね・・・。

そう、二人で再度、誓いあったのだった。