小さき森を愛する花  瑠璃唐草物語

瑠璃唐草の別名はネモフィラ。ギリシャ語のNemophila は、ギリシャ語の 「nemos(小さな森) + phileo(愛する)」が 語源とされています。そんな愛らしくも健気な花のように生きていきたいと思います。

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その⑱

新人の、入社式が無事に終わり、また営業所が

賑やかになった。

 

Sは、実践的な営業のロールプレイを、また一通り

やったあとで、新人たちの営業に、それぞれオブザーバー

として立ち会うと、約束していた。

 

お客さまへ、新人の営業一人一人が、それぞれ電話で

アポイントを取って、営業に伺うのだが・・・。

何せ、ついこの間まで学生だった彼らは、「電話応対」

にも苦戦していた。

顧客データを基に、次々電話を掛けていくのだが、

お客様も、全てが全て、好意的に、受け入れて下さる

訳ではない。

勿論、貴重な、お時間を拝借するのだから、失礼の

ないように、最新の注意を払って、丁寧に、

趣旨を説明するのだが、ガチャギリも、苦情も、

致し方ない事ではある。

しかし、新人の若い子達にとって、これはかなりの

精神的苦痛を伴うものらしい。

私も、苦い経験があるから、気持ちは、

よく解るのだが・・・。

 

実は、彼ら新人が入社する前は、私は事務職でありながら

時々、この電話アポというのを、やらされていた。

しかも、以前の店長や、他の営業職の人たちが、時間を

有効に使えるように、かなりの件数をこなしていたのだった。

なので、意外に、お手の物なのである。

 

会社の説明や、趣旨説明のほかに、お客様がお時間に余裕が

ありそうなら、世間話を交えて、お客様の緊張を解き、

営業が訪問した時に、警戒感なく接して頂けるように、

話題を振っておくのだ。

 

ここが、土地勘のある者の強みである。

子どもの幼稚園近くに、お住まいだったお客様には、

「●●幼稚園のお近くですね・・・とても静かで閑静な住宅街

で、いいところですよね~実は、うちの子も以前

通ってまして・・・。」なんて、話題を振っておくのである。

そうすると、話好きな方は、話題に乗ってくれるし、そこで

話が広がらなくても、余計な警戒感を解いて貰えるのだ。

 

そんな「土地勘」を生かしてアポを取ったお客様には、

「あれ、電話の彼女が、来るかと思ったわ・・。」とか

「よろしく言っておいてね。」と言って頂き、勿論

展示会のご招待のアポイントも、営業が取れる確率が

かなり高くなるのだ。

お陰で、前店長と営業の男性は、自分で取るより確率が

上がるから・・・と私に、仕事を頼んでいたのだった。

 

まずは、電話でアポを取らない事には、何も始まらない。

たかが電話・・・されど電話なのである。

 

二班に分かれているので、アポを取るチームと営業に

出るチームと、曜日を変えて、交互に仕事を行う

スタイルになった。

車は10台なので、二人で一台シェアする形だからだ。

 

さて、Sのチームの子達が、初めて営業に出る日が来た。

「さあ、今日からやっと業務開始だな・・・。」

「最初は、不安だろうから、順番に、オブザーバーとして

一緒について行くから・・・。」

 

「じゃ、まずは・・・A子、一緒に行くか?」

 

そうご指名を受けたのは、美女揃いのSチームの中でも

ひときわ可愛くて、社交的なAだった。

 

Sの、その発言を聞いた途端、私と、営業のおばさんは

思わず、顔を見合わせた。

 

「ああ、やっぱり、あの子から来たわね・・・。」

言葉は交わさなくても、アイコンタクトで、意思疎通が

できるほど、Sの単純な企みは、お見通しだったのだ。

 

本命からは行かない。

可愛いけど、落としやすい隙のある子から、攻略

するつもりなのだ。

 

そして、そんな単純過ぎるSの企みは、思いのほか

成果を上げるのだった。