そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その⑲
「大丈夫かしらね・・・A子ちゃん。」
「まあ、さすがに、初日から、いきなり禁じ手には
出ないでしょうけど・・・。」
「徐々に、間を詰めて・・・・って感じかな・・・。」
「やっぱり、20代の女の子から見たら、魅力的に見える
のかね~。」
「そうね・・・私達ぐらいの年齢になると、色々冷静に
見られるんだけど・・・やっぱり若いとね・・・。」
そんな会話を、営業のおばちゃんと交わしながら、何気なく
Mの方を見た。
Sが、自分のチームで、一番最初に指名したのが、可愛いA子
だったことに、少々不安を感じているのか、電話アポイント
も、集中できない様子だった。
「もしも、怪しい雰囲気になったら、Mちゃん、阻止に
動き出すかしら・・・。」
「どうかね~、表立っては、無理じゃないかしら・・・。
一応、先輩だしね・・・。」
そんな心配をしつつも、仕事に追われる私達。
夕方になって、やっとSと、A子が帰社した。
待ちかねたように、別のチームの新人の子たちが
「どうだった? 上手く行った?」と、興味津々に
矢継ぎ早に、A子に質問する。
紅潮した頬に、ポニーテイルを揺らしながら、キラキラした
瞳で、「うん、楽しかったですよ・・・ね・・・所長。」と
Sの方を向いて微笑むA子。
「良かった~アポ取れたんだね~、ねえ、どんな話したの?」
きっと、別チームの新人達は、お客様とのやり取りを、
逐一聞きたかったのだと思うのだが・・・。
しかし、A子は、天然なのか、故意なのか・・・思いもよらぬ
爆弾発言を繰り出した。
「もう、すぐに打ち解けちゃって~~、結婚の
話にまで、なっちゃいましたよね~、所長。」
この返事に、全員ポカ~ン。
しばらくして、「え、どういう事?」
「まさか、お客様にプロポーズでもされたの?」
「そんな訳、ないじゃないですかぁ~。」
「それじゃ、一体、どういうこと?」
「所長と結婚の話まで、進んだんですよ~。」
「はあああ?」
皆、驚きすぎて、絶句。
「おいおい、所長が既婚者だって、知ってるよね?
知ってて、愛人も居る、この場で、宣戦布告かい!」
と、新人の思わぬ、大胆不敵ぶりに、心で突っ込みを
入れる私。
「おいおい、そういう言い方をすると、誤解を招くぞ~。」
まんざらでもなさそうな顔で、ニヤつきながら、Sが、
言葉を挟んだ。
「つまり~ドライブ中に、どんな結婚式がしたいかとか~
どういう人が、理想か・・・とか、凄く話が弾んで
楽しかったんですよね~~~~ね、所長。」
天然なのか、腹黒なのか・・・。
計りかねる発言だったが・・・。
それを聞いて、
「なんだ、そう言う事だったの、びっくりさせないでよ
所長と結婚の約束でも、したのかと思ったわよ~。」と
笑ってくれる、優しい同期に救われたA子だった。
勿論、そこに一人だけ、心穏やかならぬ女性が居たことは、
私と、おばちゃんのみぞ知る、秘密だったのだが・・・。
その後、A子が、一人での営業が不安だと言うので、
Sのオブザーバーは、3日ほど続けざまに行われた。
しかし、さすがのSも、次のかわい子ちゃん新人が
控えているので、A子ばかりに掛かり切りになる訳にもいかず、
「一応、一周ローテーションして、まだ不安のある時には
付き添うから・・・。」と言って、次の子のオブザーバー
に切り替えた。
取りあえず、一通り、当たりを試してから・・・。
というのが、どうやらSのセオリーらしかった。
営業センスも、女の子の心を掴むトークも、得意中の得意な
Sにとって、営業のオブザーバーなんて、お堅い心構えは
皆無だったことだろう。
とにかく、密室で、若い娘と、楽しく車中デート!
ついでに、営業の心得もちょっとは出して、尊敬されちゃおう!
そんな、Sの黄金郷時代は、残念ながら、暫くは続くのである。