小さき森を愛する花  瑠璃唐草物語

瑠璃唐草の別名はネモフィラ。ギリシャ語のNemophila は、ギリシャ語の 「nemos(小さな森) + phileo(愛する)」が 語源とされています。そんな愛らしくも健気な花のように生きていきたいと思います。

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㊾

その退職の事実は、新人さんの一部に、漏れてしまった。

「本当に退職するんですか?」と驚いて、聞きに来た子も

いたのだが、「うん、黙っててごめんね~家庭の事情でね」

と、こっそり答えたのだった。

 

終礼になっても、Sの話は、別件の話で長々と続き、こりゃ

フェードアウトだな~と、半分諦めていたのだった。

 

最後の最後になって、やっとSは、「知っている人もいるかも

知れないけど、瑠璃さんは、今日で退職されます。」と告知

を入れてきた。

 

知らなかった人は、びっくり仰天。

 

「うそでしょ~~~。」と顔を見合わせている。

 

「じゃ、瑠璃さんから、みんなに一言どうぞ・・・。」

Sが、そう振ったので、「では、お言葉に甘えて・・・。」

と、一歩前に進み出た。

 

「実は、お別れのご挨拶が出来ない場合もあるかと思って

皆さんに、お手紙書いてきました。」

 (チクリと反撃する私)

 

「帰る前に、お一人お一人机を回って、お渡ししようかと

思っていましたが、お別れの時間を頂いたので、今、ここで

渡させて頂きますね。」

 

「まずは、〇〇さん、今までどうもありがとう。」

新人の女子から次々と渡していく手紙。

 

もう、手にした時から、半泣きの子もいたのだが、

「あ、今開けて読まないでよね、恥ずかしいから・・・

絶対家に帰ってからよんで・・・・。」

 

「あ~~~もう、開けてるし!」

 

私の、念押しを聞く前に、既に、手紙をオープンして

号泣している新人女子が・・・・。

 

「いや、ダメだって!持ってかえりなさ~~~い!」

 

男子は、ちゃんと言うことを聞いてくれるのだが、女子達は

お互いに、手紙をオープンし、内容のシェアが始まって

しまっていた。

 

「瑠璃さん、ほんとに、よく私たちのこと見てくれていて

泣けてくる・・・。」

感想を言ってくる子も、チラホラ。

 

(ちょっと、これは計算外だったな~。)

 

しかし、ベテラン組にも、手紙は渡さなければならないし。

 

私は、ベテランの営業オバちゃんにも、Sの愛人にも、新人の

事務の子にも渡した。

 

「そして、Y所長、色々お世話になりました。長い手紙を

書いてますので、必ず、お家で読んでくださいね!」

 

「で、更に長~いお手紙になりますけど、S所長の分です。」

 

そう言って手渡すと、何故か、ドッと笑いが起きた。

訝しそうに、手紙を受け取るS。

 

そして、Sは、片手に、その手紙を持ちながら、しきりに指を

動かして、感触を確認していた。

 

「そう、硬い感触。」

 

紙類とは、明らかに違う感触を、Sは、瞬時に気づいたのだった。

 

「所長、何て書いてあるんですか?」

そう聞きたがる新人さんをしり目に、Sは、「いや・・」と

短く返事をし、すぐにカバンに仕舞ったのだった。

 

そうそう、ここで開けて貰っちゃ困るのよ!

 

「Sよ、硬い感触は、合鍵なんかじゃないからね(ふっふっふっ)」

指を上下に動かした様子から、彼は、長くて硬いもの・・・・

封筒に入る金属製の物・・・鍵!?」

 

そんな風に、連想したように、私には見えた。

 

「まあ、鍵ちゃ、鍵か!」

「Sの、心の奥底にあるものを開け、そして、封印すべき

物を仕舞い、また閉じる為の「鍵」ね!」

 

Y所長の手紙も、長い時間をかけ、彼の良心に訴えるべく、

必死に書いたのだが・・・。

何より、Sの手紙には、最新の注意を払って書いた。

長すぎる手紙を、最後の最後まで、読んでもらうために、

私は、一世一代の博打を打ったのだった。