そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㊾
その退職の事実は、新人さんの一部に、漏れてしまった。
「本当に退職するんですか?」と驚いて、聞きに来た子も
いたのだが、「うん、黙っててごめんね~家庭の事情でね」
と、こっそり答えたのだった。
終礼になっても、Sの話は、別件の話で長々と続き、こりゃ
フェードアウトだな~と、半分諦めていたのだった。
最後の最後になって、やっとSは、「知っている人もいるかも
知れないけど、瑠璃さんは、今日で退職されます。」と告知
を入れてきた。
知らなかった人は、びっくり仰天。
「うそでしょ~~~。」と顔を見合わせている。
「じゃ、瑠璃さんから、みんなに一言どうぞ・・・。」
Sが、そう振ったので、「では、お言葉に甘えて・・・。」
と、一歩前に進み出た。
「実は、お別れのご挨拶が出来ない場合もあるかと思って
皆さんに、お手紙書いてきました。」
(チクリと反撃する私)
「帰る前に、お一人お一人机を回って、お渡ししようかと
思っていましたが、お別れの時間を頂いたので、今、ここで
渡させて頂きますね。」
「まずは、〇〇さん、今までどうもありがとう。」
新人の女子から次々と渡していく手紙。
もう、手にした時から、半泣きの子もいたのだが、
「あ、今開けて読まないでよね、恥ずかしいから・・・
絶対家に帰ってからよんで・・・・。」
「あ~~~もう、開けてるし!」
私の、念押しを聞く前に、既に、手紙をオープンして
号泣している新人女子が・・・・。
「いや、ダメだって!持ってかえりなさ~~~い!」
男子は、ちゃんと言うことを聞いてくれるのだが、女子達は
お互いに、手紙をオープンし、内容のシェアが始まって
しまっていた。
「瑠璃さん、ほんとに、よく私たちのこと見てくれていて
泣けてくる・・・。」
感想を言ってくる子も、チラホラ。
(ちょっと、これは計算外だったな~。)
しかし、ベテラン組にも、手紙は渡さなければならないし。
私は、ベテランの営業オバちゃんにも、Sの愛人にも、新人の
事務の子にも渡した。
「そして、Y所長、色々お世話になりました。長い手紙を
書いてますので、必ず、お家で読んでくださいね!」
「で、更に長~いお手紙になりますけど、S所長の分です。」
そう言って手渡すと、何故か、ドッと笑いが起きた。
訝しそうに、手紙を受け取るS。
そして、Sは、片手に、その手紙を持ちながら、しきりに指を
動かして、感触を確認していた。
「そう、硬い感触。」
紙類とは、明らかに違う感触を、Sは、瞬時に気づいたのだった。
「所長、何て書いてあるんですか?」
そう聞きたがる新人さんをしり目に、Sは、「いや・・」と
短く返事をし、すぐにカバンに仕舞ったのだった。
そうそう、ここで開けて貰っちゃ困るのよ!
「Sよ、硬い感触は、合鍵なんかじゃないからね(ふっふっふっ)」
指を上下に動かした様子から、彼は、長くて硬いもの・・・・
封筒に入る金属製の物・・・鍵!?」
そんな風に、連想したように、私には見えた。
「まあ、鍵ちゃ、鍵か!」
「Sの、心の奥底にあるものを開け、そして、封印すべき
物を仕舞い、また閉じる為の「鍵」ね!」
Y所長の手紙も、長い時間をかけ、彼の良心に訴えるべく、
必死に書いたのだが・・・。
何より、Sの手紙には、最新の注意を払って書いた。
長すぎる手紙を、最後の最後まで、読んでもらうために、
私は、一世一代の博打を打ったのだった。