小さき森を愛する花  瑠璃唐草物語

瑠璃唐草の別名はネモフィラ。ギリシャ語のNemophila は、ギリシャ語の 「nemos(小さな森) + phileo(愛する)」が 語源とされています。そんな愛らしくも健気な花のように生きていきたいと思います。

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その54

賞賛の中に、こっそりと「猛毒」を仕込んだ手紙。

Sも、Y所長も、そんな手紙を、家で、たった一人で

読むのだろうか・・・・。

 

そんな思いを秘めながらも、私は、にこやかに、すこぶる

穏やかな表情で、会社の一人一人に手紙を渡して行った。

 

 おまえも、悪よの~~~~。

 

(30歳若かったら、「あなたの番です」の西野ちゃんが

やった役、もっと上手にやれそうです!(時事ネタ)爆)

(-。-)y-゜゜゜

 

一人一人に手紙を手渡し、握手をし、それぞれの相手の

反応を静かに受け止める私。

 

まさに、パートのおばちゃん事務が、最初で最後に、

主演を勝ち取ったような場面に、Sは、しょざい無さげな

表情で、終始、黙りこくっていた。

 

単なるパートのおばちゃんが、こんなにも、皆の心の中に

入り込んでいたなんで、彼は、想像もしなかったのだろう。

 

事務的に、ほんとに挨拶だけで、数分で、退職の儀式なんて

終わると、思っていた筈なのだ。

 

「何なんだ、今、見せられている、この光景は・・・。」

 

彼は、内心、イラついていたかも知れない。

 

毎回、どんな場所でも、どんな場面でも、自分が主人公で

自分の思い通りのシナリオを描き、自分の好みの女性を

自分のストーリィー通りに、操るのが、Sの一番の

得意技で、彼の人生の醍醐味だった筈なのに・・・・。

 

若くもなく、美しくもなく、自分に従順でもない、単なる

脇役のおばちゃんに、一瞬でも、主役をかっさらわれる

なんて、彼のプライドが許す筈もない!

 

そんなSの思惑とは裏腹に、新人さん達の思いは、最高潮に

達してしまったようだった。

これには、私も、いささか驚いた。

 

手紙を渡し、最後の挨拶をして、静かに立ち去る予定

だったのだが、最後に、思いがけない演出が、私を

待っていたのだ。

 

彼らに促され、集合写真の真ん中で写真を撮り、花束を

渡された私は、柄にもなく、ちょっと涙ぐみそうに

なっていた。

 

そんな私を見送るために、新人さん達は、二列で向き合い

腕でアーチを作って、その中を通って、私を送り出して

くれようとしていた。

 

(いやいや、ちょっと待って~~さすがに照れるわ)

(〃▽〃)ポッ

 

何だか、変な汗が出てきそうだったが、若き彼等の

出来る限りの最後の演出に、有難さがこみ上げてきた。

 

「あんたって、幸せ者よね~。」

 

そんな、年配営業レディのおばちゃんも、自分の事の

ように感動して、涙ぐんでいる。

私は、意を決して、その「愛あるアーチ」を、歩かせて

貰った。

営業所の他のメンバーも、そのアーチに参加した為に、

仕方なく、アーチに加わるS。

 

そのアーチを20人分潜れば、出口に向かう筈だったのだが

名残惜しかったのか、新人さんたちの配慮なのか、その

アーチは、潜り抜けた人が、さらに後列に加わることで

社内を、ウネウネとトンネルのように、エンドレスに

続いて行った。

 

「本当に、ありがとう。皆さんのお陰で、幸せでした。」

花束を抱えながら、

「もう、ここで大丈夫ですよ~、ずっと続くと、泣いちゃう

からね~。」

 

そう言って、私は一礼し、そのエンドレスなトンネルは、

やっとハラハラと解かれた。

 

エレベーターを降り、ビルを出ても、窓から、新人さん達は

手を振ってくれた。

私は、最後に大きく手を振って、もう、振り返らずに、

そのまま、真っ直ぐ歩いて行った。

 

「振り返らなかったね・・・。」

 

そんな誰かが行った言葉が、背中越しに聞こえていた。

 

私は、もしかしたら、人生で一番幸せな瞬間を、今

この時に、迎えていたのかも知れなかった。

 

家族でも、友人でも、同じ世代でもない若い彼等彼女等に

本当に必要とされてた・・・

 

という、この上ない愛情深い「認証」を得て、

生まれて初めて、揺るぎない「自己承認」という

欲求が、初めて完全に満たされた、絶頂体験を

私は、したのかも知れない。

 

例え、彼らが、「報われない可愛そうなおばちゃん」

に同情して、ちょっと大仰な演出をしてくれていたと

しても、私の満たされた気持ちに、少しの陰りも

与えることなど、出来なかったのだ。

 

親からも、自分の家族からも、そして、私の本当の

生みの親からも、そんな満たされた気持ちを、

味合わせて貰った事などない、鉄仮面おばちゃんの、

最初で、最後の・・・・甘美な時間だった。