小さき森を愛する花  瑠璃唐草物語

瑠璃唐草の別名はネモフィラ。ギリシャ語のNemophila は、ギリシャ語の 「nemos(小さな森) + phileo(愛する)」が 語源とされています。そんな愛らしくも健気な花のように生きていきたいと思います。

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その⑦

Sが、本来の事務所へと戻り、私と、年長のおばさんは、

心底、ほっとしていた。

 

私達二人の結論としては、もう二十代のMさんが、陥落

するのは時間の問題だろう・・・と。

 

何せ、ご本人のMさんの方が、ご執心なのだから・・・。

いくらS氏の好みでないにせよ、何時までも、据え膳放置は

しないと、私たちは踏んでいたのだ。

 

酸いも甘いも噛分ける年代の、おばちゃん二人の、今後の作戦

としては、最悪Mちゃんを防波堤にして、新人の女性達に

魔の手が及ばぬように、目配りをしていくことで、淑女同盟は

再び、結ばれた。(あら、Sが居なくなった途端、正気に帰れたのね)

 

よく、フェロモンが・・・なんてことを世間で、いわれるけれど・・・。

それって、主に、セクシーな、お色気漂う女性に限定して使われる

言葉だとばかり、私は思っていた。

 

私は、男性に、そんなものがあると感じたことは無かったし、

男性の場合は、単なる比喩で、使われているに過ぎないと確信していた。

しかし、Sが居なくなると、急に、正気に戻った年長のおばさん。

そして、男性には、殊更、冷徹な私が「やれやれ」と胸を

撫でおろしているということは、やっぱり目には見えないが、

強力なフェロモンもどきが、Sから漂っていたのかも知れない。 

 

これは、気を付けなくては・・・。

 

Sは、それを知ってか知らずか、女性との距離の取り方が、異様に

近いのだ。

その距離は、他人から見たら、所謂「恋人ゾーン」と思われても

仕方ない距離感で、それを、どんな女性に対しても、繰り出して

くるのだ。

なので、彼の本性を知らない人には、うっかり「私に気があるのでは?」

と勘違いさせてしまうのだ。

 

 

 

私は、元々、他人に接近されると、圧迫感を感じるタイプ

なので、相手に気づかれないように、そ~っと静かに、距離を

取るようにしていた。

 

しかし、この作戦が、Sには、全く通じない!

そ~っと離れたとしても、離れた分だけ、詰められてしまう。

Sにとっては、その距離感が普通で、それ以上離れることは

返って、不自然なのだと言わんばかりに・・・。

 

一度、展示会の狭いお帳場で、逃げ場が無いのに、詰められた

事があり、思わず、私は、嫌な顔をしてしまった。

しかし、向こうは意に介せず、売り上げの途中経過報告を

私に確認して、計算機を叩いていた。

 

まさに、そんな時に、ベンダーさんの一人である女性が

暖簾を挙げて入って来たのだ!

勿論、その女性は、一瞬、表情が強張り、見てはいけないものを

見てしまったかのように、固まった。

そして、「失礼しました・・・。」と言って、暖簾を下げようと

していた。

 

「あ~大丈夫ですよ~。」

「売り上げの報告だけなので、どうぞ・・・。

何かご用事があったのでしょう?」

そう私は、彼女に対して声を掛けたのだが、彼女は、

「いえ、今、お取込み中みたいなので・・・あとで伺います。」

と言って去っていってしまったのだ。

 

「オ~マィ~ガ~~~~~!」

絶対勘違いされている~~~~~~~。

 

そのベンダーさんも、恐らくSのパーソナルエリア攻撃を受けて

「気があるのかも」♪って勘違いしていた一人かも知れない。

 

こりゃ、厄介だわ・・・。

 

私は、フェロモン対策として、実に滑稽で、到底効果があるとは

思えない対策を取ることにした。

しかし、これが、以外にも、思わぬ効果が有ることに、後々

気付くことになる。

 

当時は気づかなかったが、この方法も、実は、ツインソウル

ならではの間柄だからこそ、出来た方法なのかもしれなかった。

 

 

 

(今日のまとめ)

 

 

パーソナルスペースの分類

密接距離ごく親しい人に許される空間。

近接相(0〜15cm)
抱きしめられる距離。
遠方相(15〜45cm)
頭や腰、脚が簡単に触れ合うことはないが、手で相手に触れるくらいの距離。

 

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   ☝

若かりし頃のマイケルジェイフォックス

 

ファッションといい、雰囲気がSそっくりです。

 

で、こんな風な感じ。

 

    ☟

 

 


Gazebo - I Like Chopin - Audio Remastered ( Official Video )

 

youtu.be

 

 

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その⑥

住むところが決まるまで、Sは、事務所近くのビジネスホテルを

定宿にしていた。

福岡で暮らすためのアパート探しをしつつ、それと並行して

事務所の移転先をも、探すようにと、私に依頼してきた。

 

「S所長、本気ですか?事務所移転するなんて・・・。」

「ああ、本気だよ。」

「まだ、この事務所に移転して半年も経っていないんですよ!」

 

「だってさ、考えてご覧よ、来年の4月には、新入生が男女7人

づつ、合計14名も入ってくるんだぜ~。このまま、この狭い

事務所じゃ、身動きもできんだろうし・・・。」

 

「でも・・・この事務所を借りるに当たって、少なくとも

一年以上は借りるという契約を結んでいます。約定違反に

問われると思いますけど・・・。」

「別に、いいじゃないか、約束なんて、破るためにあるんだからさ・・・。」

 

どこまで本気で言っているのか、解らなかったが、取りあえず、

Sの指示通り、不動産屋に、お勧めの物件をファックスで

流してもらうことにした。

 

Sは、流してもらったファックスを見比べながら、あ~でもない

こ~でもないとチェックを入れていた。

 

「あの~、非情に伺いにくいんですけど・・・・。」

 

「何?」

 

「事務所の移転先って、ここから、そう遠くない場所を考えて

いらっしゃいますか?」

 

「いや、特に拘りは無いけど・・・。」

「天神でもいいし、博多駅周辺でもいいしさ・・・。」

「やっぱり、福岡と言えば、一番の繁華街は天神なんだろ?

いっそ天神に出ちゃうか~。」

 

「あ~そうなんですね・・・。」

 

「何、何か、不都合でもある訳?」

 

「いえ、天神でも、博多駅でも構いませんけど・・・・

出来れば、地下鉄駅から徒歩10分以内の場所に

して頂けると、有難いんですが・・・・。」

 

「何で?」

 

「私、地下鉄で通っているんですけど、今の事務所よりも

遠くなるようですと、通勤が厳しいので・・・。」

 

「あ・・・そうなんだ。いいよ、瑠璃さんの通える範囲内で

最終的に選べばいいんだろ?」

 

「はい、そうして頂けると助かります。」

 

まだ、表面上は、「話の分かる上司」と「従順な事務方」として

平穏な会話が続いていた。

 

しかし、こんな平和も、そう長くは続かないのだった。

 

唯一、二十代のMさんは、何かと口実を見つけては、Sを

誘い出し、昼も、夜も、食事や、飲み会に引っ張りだそうと

腐心していた。

 

普段のSであれば、とっくの昔に、Mさんと「深い仲」に

なっていても、不思議ではなかったのだが・・・。

 

「皆さんに、公平に接してくださいね・・・誰か一人に

肩入れすることのないように、お願い致します。」

 

という、私の遠回しな「念押し」の効果が、まだ

賞味期限切れになっていないのか、まだMさんは

現地妻の座を、手に入れることはできていないようだった。

 

私が、Sの事情に詳しいことを、彼は、察していたのかも

知れない。

大人しいように見えて、怒らせれば、本社の人間に、彼の悪行を

ご注進するという「禁じ手」を、いともあっさりと、打ってしまい

そうな不気味な、凄みを感じ取っていたに違いない。

 

 (はい、正解! 怒らせると怖いんですよ~)

 

Mさんだけでなく、最年長のおばさんも、その他のおばさま方も

いつの間にか、Sの魔力の前に、「しおらしい乙女」と

化していた。

中には、自分の成人式の写真をわざわざ持ってきて、見て貰おう

とする人とかね・・・・。

いや、どうする・・・それを見せて・・・。(過去の栄光なんて)

 

Sが、興味あるのは、現在進行形の、うら若き乙女だけだよ~。

 

そんな女性たちのキャピキャピした言動を、冷ややかに見つめながら

Sの本当の正体を知っている私だけは、その手になんか乗せられないわ

と、高を括っていた。

 

しかし、そんな冷酷で斜に構えた私ですら、うっかり「手の内」

に落ちてしまいそうな事が起こった。

 

「事」というには、単純過ぎたかもしれない。

 

ある日、普通に事務処理をしている時のことだった。

Sは、不意に、何の前触れもなく、小声で呟いたのだ。

そう、すぐ隣に座っている私に、聞こえるか聞こえないかの

微かな声で・・・。

 

その呟きは、5・7・5・7・7の短歌だった。

 

瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の


割れても末に あはむとぞ思ふ

 

これは、百人一首の中でも、情熱的な一句として

知られる崇徳院の歌である。

 

何の脈絡も無く、いきなり、そのフレーズを口にした

Sに、私は、不覚にも、「ドキッ」としてしまった。

 

実は、この句は、私が、一番好きな一句だったのだ。

しかし、私は、その事を今まで、誰にも言ったことが無い。

 

まして、何で、このタイミングで、呟いたんだ!?

 

どこで知った!

何をリサーチした?

 

私の脳は、フル回転していた。

「あ・・・もしや、履歴書を見たのか・・・。」

 

私の脳で、合理的に考えられるのは、その事だけだった。

勿論、履歴書なので、「私の好きな一句」なんて

書いている訳でもない。

 

恐らくSは、私が国文科出身であることを知って、

この作戦に打って出たに違いない!

 

「ん~ああああ~~~悔しいが・・・ビンゴ!」

 

座右の銘ならぬ、その一句が、私の人生の友だったわ!

 

もし、私が、二十歳そこその小娘だったら、この一件で、

陥落していたかも知れない。

(あら、以外に簡単なのね・・・言葉フェチの弱点)

 

良かったよ・・・伊達に歳だけを重ねたオバちゃん

じゃなくて・・・。

 

今までの、度重なるセクハラ・パワハラモラハラ

揉まれて強く、逞しい、おばはんへと成長を遂げていた

私は、崖っぷちで、ぐっと踏ん張ることが出来た。

 

しかし、油断ならんな・・・。

 

「え・・・今、何って、仰いました?」と切り返した私に

 

「いや・・・別に・・。」

「二度も、同じことは言わないよ・・・。」と

 

不敵な笑みを浮かべるとは・・・・。

 

恐るべしS。

 

女の弱点を鋭く見抜くSと、冷淡な策士の私の

静かな戦いは、まだ始まったばかりだ。

 

しかし、不味いな・・・このままでは、私だって、うっかり

「乙女なおばはん」へと凋落されてしまうかもしれない。

何とか対策を立てねば・・・・。

 

そう思案していた時、急にSが、

「俺、一旦、家へ帰るわ・・・。」と言い出した。

 

そう、彼は、福岡への正式な辞令が降りる前に、

事前に上司から知らされて、思い付たように来福したに

過ぎなかったのだ。

 

Sの正式な勤務先は、まだ北関東の某県であり、そこの

所長として「席」は残ったままになっていたらしい。

 

余りの事に呆れたが・・・。

しかし、内心、ほっとした私。

これで、対策を練る時間が稼げる・・・。

 

後日談だが・・・。

北関東の某県の事務所を、ほっぽらかし、福岡に

一週間も行ったきりになっていた所長に、向こうの

事務方の女性は、怒り心頭だったらしい。

 

そりゃ、そうだわ・・・。

 

思いついたら、即、行動。

仕事も、女もね・・・。

 

そんなSに、私達福岡の面々も、右往左往させられて

いくのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ここでちょっと・・・Have a break!


薬師丸ひろ子 メイン・テーマ

 

 

はぁ・・・・・癒される~。♡

 

 

私の、鼻歌のオハコだった、薬師丸さんの歌の中でも

何故か、最近、この歌ばかりが、頭の中をグルグル回っていました。

 

久々に、昔の歌声を聞いたら、やっぱり素敵!

 

贅沢な時代でしたわ~。

 

リアルタイムで、彼女の美しい声を聴けて・・・・。

 

 

まだまだ、ツインソウルの悪行三昧のストーリーを

書き連ねて行かねばなりませんが・・・。

それは、あくまでも「サブテーマ」であって、

 

「メインテーマ」じゃありません。

 

しかし、メインテーマに辿り着くまでには、サブテーマの

階段を、一段一段登らない訳には行かなくて・・・。

 

でも、疲れますわね・・・。

もう、ひと昔以上も前の事だというのに・・・。

 

なので、ちょっと、ここで休憩。

 

薬師丸さんの、心に響く歌声で、心洗われて・・・。

 

また、ハードコアな生き方の、ツインソウルの話を

 

書かせて頂こうと思います。

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その⑤

Sの恐ろしい能力の、片鱗を見た私は、最年長のオバサンさんと

Sの対策本部を、こっそり立ち上げることにした。

 

「不味いわよね・・・このままだと・・・。」

「どうやら単身赴任になるみたいよ・・・。」

 

「うわ~お目付け役、来ないのね~。」

「奥さん、心配じゃないのかしら?」

「むしろ、自分の目の前で浮気を見たくないってタイプ

なのかしら?」

 

「いやいや、それにしたって、初めての単身赴任で

しかも九州なんだから、一度くらい様子を見に来て、

準備ぐらいやるでしょうに・・・。」

 

しかし、Sの奥さんは、Sの単身赴任の支度はおろか、

その費用すら、ロクに彼に渡していないようだった。

 

「どうしょうかな・・・冷蔵庫、洗濯機にレンジぐらいは

最低でも用意しないと、ダメだよなぁ~。」

 

そんなSの独り言に、早くも反応し、そそくさと世話を

焼きたがる、現地妻候補が、早くも現れていた。

「あ~、私、一人暮らししていた時のレンジとか

ありますけど、良かったら、使います~?♡」

 

「あ~ほんとに?助かるわ~。」

「あと冷蔵庫と洗濯機だな・・・瑠璃さん、安い電気屋知ってる?」

「そうですね・・・このご近所だと●●電器さんが、安い量販店なので

色々種類があると思いますけど・・・。」

 

そんな会話をしながら、年長のおばさんとの極秘対策本部では

ひっそりと、議論が進んでいた。

 

「やっぱり不味いわよ~、もうMちゃん、完全メロメロよね?」

「4月には、新人の女の子が7人も入ってくるっていうのに

所内に、不倫の空気が漂うのは、御免被りたいわ・・・。」

 

「私達、おばちゃんなら、そういう対象にもならないし、

噂にもならないから、一応、単身赴任の準備ぐらいは

一緒に、してあげようか?」

「Mちゃんに任せたら、ほぼ一月で、アウトだと思うわよ。」

 

私達、おばちゃんチームは、何とかSの女性遍歴ライフワークを

所内で発動させないように、最新の注意を払うことにした。

 

しかし、年長のおばちゃんが、何を思ったか突然、

 

「私さ、やっぱり、単身赴任の手伝い辞めるわ~

何か起こったって、もういい、高見の見物させてもらうわ~。」

と、まさかの手のひら返し。

 

「それはないでしょ~~~。」

「知らんよ~、ここで危ない芽は摘んでおかないと、後々

大変な思いをすることになるわよ~。」

 

そう、説得してはみたのだが、最年長のおばちゃんは、頑として

考えを変えることはなかった。

今から思えば、この最年長のおばちゃんも、既にSの魔力に

取りつかれてしまっていたのかも、しれなかった。

 

そして、私の予言どおりに、大変な事態へと発展していく

のである。

 

「だから、言ったじゃないの!」

 

そんな言葉が、私の口から出るのは、そう遠い未来ではなかったのだ。

 

 

 

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その④

Sは、直前まで北関東の、とある県の、営業所長をしていた。

九州の営業所に赴任するに当たって、取りあえず

今回は、下見に来たということだったらしい。

 

住むところも決めねばならないし、色々と準備が

必要なので、大体の雰囲気を掴んでおきたかったのだろう。

 

福岡は初めてという事だったので、とにかく、歓迎会を

しようという事になった。

しかし、急なので、お店の予約が取れない。

営業所の有志数人で、事務所から、ほど近い飲食店街を

さすらい、一軒の店へと入った。

 

その店の外観は、いまにも潰れんばかりの、寒々とした

素っ気ない外観で、私たちは、仕方なく、そこへ入ったのだが

意外にも、そこは「知る人ぞ知る人気店」だったらしい。

 

昭和レトロな雰囲気が漂う、その店内には、女将さんと若い

女性が働いていた。

その若い女性は、「今、青森から出てきました」って雰囲気を

漂わせる、りんご頬っぺの、素朴な女性だった。

私達女性陣は、「今時、あんな素朴な感じの人、珍しいね。」と

思わず、小声で囁きあっていた。

 

女将さんに勧められるままに、私たちは着席し、目の前には

大きなガスコンロが、運ばれてきた。

ここは、引退した力士が営む、ちゃんこ屋だったのだ。

 

鍋が煮えるまでの、お通し代わりに、自家製のキムチが

運ばれてきた。

 

「辛いのかしら・・・だったら苦手だわ~。」

そう言いながら、恐る恐る、箸を伸ばす女性陣。

「うわ~~、想像以上に辛いわぁ~。」

 

私も、食べてみた。

確かに、口から火を噴きそうな感じだ。

しかし、それも、ほんの一瞬で通り過ぎ、口の中には

旨みだけが残った。

辛ささえも、清涼感に感じる不思議。

ここのキムチ、辛いけど、癖になる味だったのだ。

辛い物苦手な私なのに、箸が止まらなくなった。

 

「女将さん~、コレお代わりできる?」

誰かが、追加注文してくれた。

 

乾杯のために、コップや、ビールを運んでくる、純朴な

女性。

 

すると突然、Sが、彼女に話しかけた。

 

しかし、Sが発した言葉は、何故か日本語ではなかった。

 

「は?今何て・・・・?」

 

ポカンとなる私達。

純朴な彼女は、Sの声が聞こえなかったのか、何の

反応も示さなかった。

 

すると間髪入れず、Sは、先ほどとは、また別の言語で

何やら話しかけた。

 

すると先ほどの純朴な女性は、Sの方を向いて、一言

二言、返事を返した。

 

「どういう事? あの人、日本人じゃなかったの?」

ざわつく私達。

 

すると、女将さんが、「実は、この子、モンゴル出身

なんですよ~。まだ、こっちに出てきて間もないから

日本語がよく話せなくって・・・。」

 

私たちは、一斉に、Sの方を凝視した。

 

「何で、日本人じゃないって解ったんですか?」

「そもそも、日本人じゃなかったとして、どこの

国の人かなんて、どうして見当がついたんですか?」

 

私たちは、訝し気に、Sの発言を待った。

しかし、Sは、飄々としてもので、

 

「いや・・・何となく・・・・。」

 

と言ったっきり、何事もなかったかのように

キムチを頬張り始めた。

 

私と、最年長のおばちゃんは、互いに顔を見合わせ、

 

「こりゃ、相当な強者みたいね・・・。」と

いった表情で、目くばせし合った。

 

一言も発しなかった素朴な女性を、ほんの何秒か観察して

日本人でないと見抜き、おそらく、先に中国語で話しかけ

返答がないと解るや、モンゴル語で、話しかけたS。

 

語学力も、凄いと言えば、凄いに違いないが・・・。

その女性に対する観察力・・・洞察力・・・。

いや、動物的本能のような識別能力たるや、常人では

考えられないスペックだった。

 

そう、Sの処世術の一つは、この女性に対する嗅覚の

鋭さにあったのだ。

そして、その能力は、出世の為だけではなく、彼自身の

尽きせぬ女性への探究心、そして、ライフワークでもある

「女性遍歴」の為に、いかんなく発揮されていくのである。

 

私が、彼に最初に感じた「ヤバイ」は、まさに「コレ」

だったに違いない!

 

まさに、これから先、私は、この「ヤバイ」と感じた渦に

否応なく、巻き込まれてしまう運命だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その③

上司からの紹介が終わり、それぞれデスクに戻って

仕事開始。

 

しかし、私の中で、何かが、腑に落ちなかった。

 

「オカシイ・・・・何かが、オカシイ・・・。」

 

何が、オカシクて、何に違和感を感じているのか

自分でも解らないまま・・・。

 

私は、只管、自分の今までの人間観察のデータを

探っていた。

 

「こんなタイプ、今まで、どっかで出遭ったっけ・・・。」

 

何故なら、私の心の奥底から、「こいつはヤバイ!」

という警報が、鳴っていたからだった。

 

何故、コイツがヤバイのか?

コイツの何がヤバイのか?

そもそも、ヤバイは、危険のヤバイなのか・・・?

それとも、実は、このヤバイを経験するために、

ここで出会うべくして、出遭ったのか・・・。

 

いつの間にか、自問自答が、始まってしまっていた。

 

新しい上司のSについては、多少のデータはあった。

以前の営業所の事務方から、「注意事項」情報を

入手していたからだ。

 

そんな情報と、あの渋い声から、艶めいた、ちょい悪親爺を

連想していた私だが、実際の本人とは、あまりにも

イメージが、かけ離れていたのだ。

 

ただ、外見だけを見ると、爽やかな好青年で、普段着なら

二十代に見えるぐらい若い。

そして妙に、遠慮がちだったのだ。

幾ら、私が年上だったとしても、一応上司だからね・・・。

それほど、気を使って貰う必要性も無かった筈なのだ。

 

もしかしたら、あちらはあちらで、「怪しいやつ警報」が

鳴り響いていたのかも知れない。(爆)

しばらくは、お互い、遠巻きで、お互いを観察している・・・

という状態が続いた。

 

Sは、現在の上司であるYの先輩であり、プライベートでも

仲の良い関係だったらしい。

Yは、現在の会社に入る前の、別の会社でSと知り合い、

先輩を追って、今の会社へ転職を果たしたと聞いていた。

 

Sの武勇伝を語らせたら、立て板に水のYであったが、今回の

人事が、所謂Yの降格を意味するものだった為、これ以降の

二人の関係性は、微妙なものとなっていく。

 

事務方として、この社内の降格人事を、取引先に説明するのも

難しい事情があったのだが、そこは、歳の功ってやつで、

何とか相手方に、遠回しな表現で、察して貰えるように

務めた。

具体的な内容は書かないが、Yは、営業としては一流だが

管理職としては三流で、営業が一流だというプライドを

捨てきれず、営業社員の採用を失敗し、その事で、営業所が

空中分解しそうになってしまったのだった。

 

その空中分解を防ぐべく、救世主として現れたのが、Yとも

親しいSだったのだ。

見た目の頼りなさそうな雰囲気とは違って、Sは、上司から

非常に信頼されていた。

 

そう、仕事は、できる奴なのだ。

 

そうそう、仕事オンリーだけなら、私としても、今までで一番

やり易い相手だったのだが・・・。

私は、右腕にも成れたと思うし、恐らく有能な秘書のように

仕事の段取りを出来たと思う。

 

しかし、そうは問屋が卸してくれなかった。

 

何故なら、見た目の爽やかさに反して、彼の心の奥底には、

とんでもない悪魔が、潜んでいたからだった。

その一端は、ほどなく、私の前で、現わされることとなる。

 

 

 

 

 

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その②

そう、私が結婚して、子どもを産み育て、そろそろ

再就職をしようとしていた時、それは、起こった。

 

出張が多く、とうとう単身赴任してしまった夫。

もっと早く、社会復帰したかったのだけれど・・・。

一人っ子の息子を置いて、フルタイムの仕事を

探すのは、困難だったんですよね・・・。

 

もう、流石に限界の年齢だわ・・・。

そう思った私が、探したのは、パートの事務。

でもね、名目はパートだけれど、実際はフルタイム。

しかも、月一展示会のある仕事の為、夜9時過ぎる事も

ありました。

 

仕事はね、結構頑張れる人なんですよ・・・私。

でもね、困るのは、人間関係。

 

独身の頃も、一筋縄でないかない、おじ様たちを相手に

セクハラと、パワハラと、モラハラにと、たった一人で

立ち向かう日々でしたが・・・。

再就職してからは、これまた、一筋縄ではいかない、

おばさま方を相手に、孤軍奮闘。

 

恐らく、訴えても良いレベル?という「苛め」に只管

耐える日々。

 

そんなある日、私は、珍しく風邪が長引き、会社を休むことに。

本来は、転勤してくる上司を、迎える立場でしたが、体調が

悪くて、とてもそれどころではありませんでした。

 

なんとか持ち直した翌日、私は、少し早めに出社しました。

まだ、誰も、出社していない筈でしたが・・・。

そこに見知らぬ顔が・・・。

「あれ・・・今春入ってくる新人さん?」

そう思える程、若かった男性に、一応一礼して机に向かう私。

 

上司が出社して、その男性を紹介されました。

 

この方が、今日から、ここの責任者になるSさんです。

「え・・・・まさか・・・ほんとにSさんですか?」

「お電話でお話しした時、あまりに渋い声なので、てっきり

私と同い年ぐらいかと思ってました。お若いんですね!」

 

「え・・・若いって程でも無いけど・・・35ですよ!」

「見た目、二十代って言っても、信じますよ~。」

「あ~よく言われますね~。」

 

「あなたも、電話での声の感じと違いますね~。」

「そうでしょ・・・声は若いって言われますから・・・。」

「いやいや、そういう意味じゃないけどね・・・。」

 

そう、声は二十代な私。見た目は、いたって普通の

中年のおばさんだが・・・。

 

この出会いが、特別な意味のある、出会いだったとは、

その時、まだ私は、知る由も無かった。