小さき森を愛する花  瑠璃唐草物語

瑠璃唐草の別名はネモフィラ。ギリシャ語のNemophila は、ギリシャ語の 「nemos(小さな森) + phileo(愛する)」が 語源とされています。そんな愛らしくも健気な花のように生きていきたいと思います。

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㉞

他県の所長さんたちから、叱られるわ、大人しいと思っていた

おばちゃん事務から、啖呵を切られるわで、Sとしても、

ちょっと考えるところがあったのか、しばらくの間は、

大人しい状態が続いた。

 

信販のTさんも、ほっと胸を撫でおろしていたのだが、

実は、これはフェイクな静寂に過ぎなかったのだ。

 

反省していると見せかけて、時間を稼ぎ、Sは、その間に

私たちが考えもしない策に打って出たのだった。

 

人手が足らず、お客様に、十分な対応が出来なかった時代から

当社の社員でもないのに、何くれとなく、心を砕いて、親身に

なって動いてくれた、信販のTさん。

それなのに、彼女の「厳しい目」があるから、新人の美人

派遣社員さんに近付けないと思ったのだろうか・・・。

 

こともあろうに、Tさんを、担当から外すように、信販会社の

上役に、こっそりと、裏から働きかけていたのだった。

 

そして、次の展示会には、まんまと、美人派遣社員さんと、

別の新人派遣さんを、手配させる事に成功したのだった。

 

しかし、慣れない二人では、信販の契約事務ですら、色々と

手違いが起こり、お客様に、ご迷惑をかけることに

なってしまった。

 

「何で、Tさんが来なくなったんですか?」

 

「いや、別にいいだろ、実際、オバちゃんより、若い子の方が

ずっと明るくなって、いいだろ?」

 

「そう思っているのは、所長だけですよね?」

 

「実際、彼女達の本来の仕事である、信販の契約すら、ちゃんと

出来ていない状況ですけど?」

「今まで、Tさんは、自分のお仕事は、もちろんのこと、

私たちの手に余る仕事まで、自ら、進んで手伝って下さって

いました。そのお陰で、今まで展示会もつつがなく、運営できて

いたんですよ。」

「Tさんに、何の落ち度も無かったのに、いきなり来なくていい

って、良く言えましたよね!」

 

「今は、若い子も、沢山居るじゃないか! 助けが欲しいんなら

若い子に言えば、いくらでも手伝ってくれるさ!」

 

全く意に介さないSに、イライラする私。

 

(てめ~っ、人の誠意を何だと思ってやがるんだ~~っ!)(; ・`д・´)

 

若い派遣さん二人に、顔も綻ぶS。

それぞれ別個に、デートの誘いをかけるS。

 

 (もはや、呆れて言葉もない)

(お前の辞書には、分別て、二文字は無いのか~~!) 

 (# ゚Д゚)♯ 大バカヤロ~~~

 

「ちょっと聞いてよ~~~~。」と

仙台の同僚に掛ける電話の回数も、当然のように増えた。

この腹だだしさと、虚しさは、経験した者同士でしか

共感できないからだ。

 

「一体、どうしたらいいんだろう・・・。」

 

もう無策状態に陥る私。

 

正義の味方Tさんを失って、お先真っ暗状態になって

しまった。

 

ここぞとばかり、我が世の春を楽しむ、やりたい放題のS。

 

しかし、ついに、美人派遣社員さんの堪忍袋の緒が切れる

時が来た。

彼女は、自ら、上司に、今までの顛末を話し、退職する旨を

告げたのだった。

この事態を、重大に捉えた信販会社の上司は、うちの本社に

対し、文書で、Sの行状を訴えたのだった。

これには、さすがの統括部長も、無視は出来ず、直接福岡

支店に、電話を掛けてきた。

 

「一体、どうなってるんだ! 信販会社から、物凄いクレーム

が来たんだぞ!」

「君がついていながら、何してるんだ?」

 

(はあ? 何いってるんだハゲ! 私は、Sの妻でも、愛人でも

上司でも、監視係でも何でもないんだぞ~~~何なら部下だわ!

Sのだらしなさの責任なんか、一mmたりと取れるか!)

 

そう言ってやりたい気持ちを抑えつつ・・・・。

 

「部長、パートの事務の、おばちゃん如きの小言で、所長が

大人しくなるとでも、お思いでしょうか?

もし、そのような真摯な方でしたら、あちこちの営業所で、

武勇伝が生まれたりしないでしょう?」

「ここは、やはり、直接部長の方から、ガツンと所長に

言って頂くのが一番かと・・・。」

 

「うん・・・まあ、それもそうだな・・・。」

「Sは、今居るのか?」

「はい、お電話お替り致します。」

「所長~統括部長から、お電話入りました~。」

バルコニーで、たばこを吸っていたSに、私は

電話を取り次いだ。

 

暫く、話し込んでいた二人だったが、どう丸め込んだのか

結局、Sにお咎めは無かったようだった。

 

一体統括部長は、Sにどんな弱みを握られているのだろう・・・。

そう思わせるほど、統括部長のSに対する態度は、いつも

弱腰だったのだ。

 

さては、綺麗どころ、斡旋したね・・・・。

 

統括部長も、頼りにならないとすれば、一体何を武器に

戦っていいのやら・・・。

 

新人の信販社員さんとも、デートが取り付けられなかった

Sは、とうとう、その信販会社との契約さえも打ち切った。

 

「所長、何考えてるんですか!」

 

「あちらの信販会社さんとは、長いお付き合いもありましたし

色々、便宜を図って頂いてきました。」

「ご年配のお客様が多い、うちの会社では、審査が厳しいと

信販契約すら、結べないんですよ!」

 

信販会社なんて、いくらでも代わりがあるじゃないか!

もう既にN信販には、話を通してあるから、心配しなくても

困らないから。」

 

(てめ~~っ、信頼関係って、そう簡単には築けないってこと

知らないのか~~~~~。 ゼイゼイ)

 

この頃になると、信販会社だけでなく、商品を提供してくれる

ベンダーさんとも、大いに揉める事態に陥っていた。

 

もう展示会自体が、大ピンチに陥りそうになっていた。

 

 

 

 

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㉝

ある日の午後、私は、Sから呼び出された。

 

「ちょっと瑠璃さん、入り口のドアストッパーなんだけど

どのタイプにするか決めたいんで、ちょっと見てくれる?」

 

「え、ドアストッパーですか? 所長の使い安いタイプで

決めて頂いていいと思いますけど・・・。」

 

「まあ、そう言わず、ちょっと、こっちに来て、実際に

見てみてよ。」

 

私は、Sの後について、入り口のドアの外側に立った。

 

「やっぱりさ、この一本足タイプだとさ、荷物を運ぶとき

ドアの重さを支えきれずに、動く可能性があるから、もっと

しっかりした、こっちのタイプがいいよね?」

Sが、しゃがみ込んで、ドアの前に座って、カタログを見て

いたので、私も、同じ体制でしゃがみ、カタログを除き込んだ。

 

「そうですね、そちらの方が、安定感があると思います。」

「じゃ、こっちにするか・・。」

 

わざわざ、私に見せるほどの事でもないのに・・・と思いつつ

立ち上がろうとしたのだが、それを遮るかのように、

Sは話し続けた。

 

「ところでさ・・・・まあ、色々噂というか、色んな誤解が

あるんだと思うんだけどさ・・・・。」

 

その一言で、私は、例の一件だと察した。

 

「何のことでしょうか?」

 

「何か、俺がさ~、色々良からぬことをしているって噂が

立っててさ~。」

 

「へぇ~そうなんですか~、噂なんですか~。」

「火のないところに、煙は立たずって言いますけどねぇ~。」

 

「いや、誰かが、火のない所で、煙モクモク出している

みたいなんだよね~。」

「あら、誰でしょ?」

「いや、他に居ないでしょ?」

 

「私、別に、煙モクモク焚いてませんよ。むしろ煙が

小火にならないように、火消ししている積りですけど。」

 

「噂に尾ひれが、ついちゃってさ、大げさになって、困ってる

んだよ。」

「あちこちの所長から、怒られるし、部長には睨まれるし。」

 

「尾ひれ? 尾ひれの部分で、どこでしょうか?」

「所長が、信販会社の既婚女性を口説いて、意に添わなかった

から、「辞めさせる」と脅して、ご本人がトイレで、泣いて

しまわれた・・・って部分でしょうか?」

 

「これ、尾ひれでなくて、事実ですよね?」

 

「いや、食事には誘ったよ。確かに・・・。でも実際デートも

した訳じゃないんだし、色々詮索されるのはさ・・・。」

 

「所長、事の重大さ解ってます?」

 

「デート云々じゃなくて、嫌がる女性に、職権乱用して

自分の思い通りにしなければ、辞めさせるって言っている

んですよ。」

 

「これ、立派なセクハラで、パワハラですから!」

 

「きちんと、相手に謝って和解しないと、訴えられることも

あるし、既に、信販会社の上司に、事情が知れ渡っている

かも知れないんですよ。信販会社の方から、正式に通知が

来たら、社長にも知れてしまうかも知れないんですよ。

そうならないように、所長さんたちが、ストップかけて

くれようとしているんです。」

 

「いや、それが余計なことじゃないか~。」

「はぁ~!?」

 

私たちは、座った姿勢から、いつの間にか立ち上がり、

腕を組んだままで、お互いを睨み合って立っていた。

 

不穏な空気に、部屋の中で作業していた新人達が、いつの間にか

こちらを、チラチラと盗み見していた。

 

「痴話喧嘩?」

 

そんな声が、聞こえた。

 

(冗談じゃないぜ~~~~。何が痴話喧嘩だ!)

 

私は、急にバカらしくなり、踵を返した。

 

「とにかく、自重してくだいよ。」

「私は、もう知りませんからね!」

 

年下とは言え、パートのおばちゃんが、上司に正々堂々

楯突いた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㉜

仕事から、戻ると、食事の支度・片付け・お風呂・そして

子どもの世話が待っている。

 

一通り済ませると、私は、携帯電話を取り出した。

今日の一件は、事務のパートのおばちゃんが、簡単に

解決できる問題ではないからだ。

 

電話の相手は、同期の仙台支社の事務の女性。

彼女とは、当時、一度も会ったことは無かったが、入社した

時期が近かったこともあり、複雑で独自な会計処理の仕方や

システムの不具合の件で、お互い、相談することが多くなって

仲良くなったのだった。

結構、物理的距離は離れているけどね・・・。

 

「いや、もう聞いてよ~~~。」

「何々?」

「奴が、やらかしてくれたのよ~。」

「え~~~また? 女性関係かい!」

「それ以外無いでしょうよ・・・。」  "(-""-)"

 

仙台の彼女も、Sと短い間ではあったが、働いた経験があり

Sの女癖には、辟易させられた一人でもあった。

 

「で、何やらかしたの?」

「実はさ、信販の既婚女性に、お付き合い迫ってさ

振られ続けたもんだから、とうとう首にするって

恫喝しちゃってさ~。」

「え~~~もう、何・・・何やらかしてるのよ~。」

「でしょ~~~~。」

信販の先輩女子が怒ってさ、上司に報告して、会社

として断固抗議してもらう!って、もうレッドカード

状態なのよ~。」

 

「あいた~~~やらかしたね~。」

 

「うちに居た時はさ、こっちのレディさん、あっちの

レディさん(営業レディ)って、渡り鳥みたいに、渡り

歩いていたんだけどさ~。」

「とうとう取引先まで、手を出したか・・・。」

「まあね、美人なのよ~。色白さんで、細くて、儚げで。」

「ありゃ~ドストライクなのね。」

「でもさ、あまりに芸がない・・・そしてえげつない。」

「モテ男のメンツが廃るってか~。」

「どうしたらいいと思う?」

「私が何か言ったって、屁の河童、聞きやしないと

思うのよね。」

信販会社から、ねじ込まれる前に、先輩諸氏から、拳固

してもらう手はないかしら?」

「あ、うちの所長、ちょっとSより先輩だし、Sの女癖の

悪さも知ってるから、言って貰おうか?」

「うわ~お願いできる?」

「うん、言ってみるね。」

 

仙台の彼女の進言のお陰もあったのか、はたまた、昔っから

Sに対する反感があったのか、仙台の所長だけでなく、数名の

所長達が、本社の上司や、直接Sに苦言を呈してくれたよう

だった。

 

しかし、そのとばっちりが、後日、私の身に降りかかって

きたのだった。

 

 

 

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㉛

Mのあまりに、あざとい「愛人アピール」が、効きすぎたのか

Sが、新人女性達と、必要以上に親しくなれない雰囲気が

生まれつつあった。

 

まあ、大人チームとしては、変に、新人女性に手を出されて

ゴタゴタするよりは、多少目には余っても、Mが防波堤に

なってくれるのであれば、もう、致し方ない事として

目を瞑ろうと、考えるようになっていた。

 

しかし、それでは、Sの狩猟本能が満たされなかったらしい。

 

なにかとMの目を盗んでは、信販の美人派遣社員さんを

口説き落しにかかっていたのだ。

 

最初こそ、甘い言葉を、囁いていたものの、全く、相手に

されなかったSは、とうとう業を煮やし、あろうことか

その美人派遣社員さんに対して、

「デートしなければ、仕事から外す!」

などど、脅してしまったのだ。

 

何をしてるんだ、Sよ!

女性を脅すだなんて、ドンファンの名が泣くぞ~~~。

 

今まで、美人モデルさんやら、美人CAさんやら、周囲が

驚愕するほどの美人と、数多、浮名を流してきたというのに、

「恫喝」してまで、女性と付き合おうだなんて・・・・。

 

磨き上げてきた、ドンファンの手練手管は、

錆びついてしまったのか!?

 

ま、関東の女性は、比較的、雰囲気と、甘い言葉に

弱いのかも知れないけど・・・。

九州の女性は、一本芯が通ってますからね~。

そうそう簡単には、落とせませんけどね~。 (-。-)y-゜゜゜

 

しかし、一度「イエローカード」を突きつけていた、

同じ信販の先輩Tさんは、この事態に、烈火のごとく怒った。

Tさんの、この怒りには、多少、嫉妬も交じっていたかも

知れないが、それよりも、可愛い後輩が、パワハラ・セクハラ

の憂き目に遭っているのを見過ごせないという、

女の心意気の方が、今回は、勝っていたと思う。

 

いくら先輩と言えど、Tさんとて、雇われの身。

取引先のSを、怒らせてしまえば、Tさん自身が、首になる

危険もあるからだ。

 

Tさんは、私の居るお帳場にやってくると、鼻息も荒く

捲し立てた。

 

「もう、今日という今日は、絶対に許せないわ!」

「新人さん、トイレで泣いてたのよ~~~~。」

「いくら彼女が美人で、所長の好みだからってさ、人妻よ!」

「いや、人妻じゃなくったって、嫌だっていっているものを

仕事を干すとか、脅して、デートに持ち込もうとしてるのって

絶対、男として、人間として、許せないわ。」

 

「私ね、もう、自分が、この仕事から外されてもいいのよ。

決心したわ。今日、支社に戻ったら、今回の一件を、上司に

話して、会社として、しっかりと抗議してもらうわ!」

 

あまりの勢いに、狭いお帳場は、熱気が籠りそうだったが、

Tさんの怒りは、至極ご尤もな事なので、私は頷きながら、

傾聴した。

 

「確かに、目に余る酷い行為ね! 

もう、情けないわ・・・・同じ会社の人間として・・・。」

「たださ、もしTさんが、信販会社に戻って、この事を

上司に相談したとして、上司は、ちゃんと動いてくれる?」

信販会社さんだって、お得意さんには、色々言いづらいこと

もあるでしょ? ましてや、セクハラ・パワハラとなれば

言い逃れできないほどの証拠がないと、Sからの反撃に

遭うよ。」

「口説かれている時、録音するとかさ・・・証拠残さないと

Sは、意外と上に信頼されているから、不問に伏されるかも

知れないよ。」

 

「大丈夫よ、私、その口説き文句聞いていたもの。

証言できるわ。」

「そっか~、じゃ、一度、上の人に相談してみて。」

「私も、それとなく所長に、釘刺しておくから。」

「それでも、ダメだったら、もう仕方ないね・・・。」

 

やれやれ、Sの底なしの女癖の悪さのせいで、私は、

自分の仕事以外に、厄介な事を引き受けざるを得なかった。

 

しかし、ここは下手に動くと、Tさんや、新人さんの首が

飛ぶ危険性がある。

上司をものともしない、恐れ知らずの鉄仮面おばちゃんとて

軽々に動くのは、考え物だ。

 

私は、Sに直談判する前に、一計を案じた。

 

 

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㉚

連休明けの社内では、和気藹々と、呼子ドライブの話題が

盛り上がっていた。

 

呼子の烏賊、美味しかったね~。」

「初めて食べたけど、感動したわ~。」

「ビーチボールも、めっちゃ盛り上がったね!」

「何か、みんな、めいっぱい、はしゃいじゃったよね~。」

「ほんと、楽しかった~~~。」

 

「でも、一番、楽しんでて、若いな~って思ったのって・・・。」

 

「所長!」

 

異口同音に、答える新人達。

 

「そうそう、服着たまんま、海へ走り出したんで、びっくり

したよね~。」

「他の男子も、ちょっとつられて、海入ってたね~。」

「なんかさ~、高校生みたい。」

「青春(あおはる)かよ~~~~。」

 

新人たちの、そんな話を、楽し気に聞いていた、大人たちだったが、

おもむろに、営業のおばちゃんが、一言。

 

「まるで、青春群像みたいだったわよ!」

「若い教師と、その教え子みたいな・・・・。」

 

「え~っ、一緒に行ってたの?」

思わず、その事実に、びっくりした私。

 

「あなたも、来ればよかったのよ~。」

 

「そうね、次回があれば行くわ。」

 

そんな気もないくせに、一応忖度してみた。

 

「ところで、所長、皆が浜辺で、ビーチボールしていた時

誰かに、電話してませんでしたか?」

 

「誰に、電話してたんですか?」

 

「う・・・うん、ちょっとね・・・。」

 

Sは、急に、思わぬことを聞かれて、答えを濁した。

まさか、公衆電話で、電話を掛けている自分の姿を、

他人に見られていたとは、思わなかったのだろう。

 

「あ~~~、さては、ご家族が恋しくなって電話

してたんでしょ~。」

 

「まあ・・・・ね。」

 

私は、新人たちの、急な質問にも、Sのしどろもどろの

答えにも、顔色一つ変えずに、平静を装った。

 

やはり、Sだったか・・・・と、心の中では、「正解」

のピンポンが、鳴ってはいたのだが・・・。

 

Sが、私に、無言電話を掛けてた・・・なんて事実は、

新人達にも、会社の大人チームにも、ましてや、

当の、私本人には、絶対、知られたくない事だろうと、

思ったからだった。

 

どんな動機で、どんな思いで、電話を掛けていたとしても、

自分の弱みは、絶対、人には見せたくない!

 

これは、残念ながら、ドンファンなSと、冷徹おばちゃんの

私の、唯一の共通点だったかも知れない。

 

年齢も、性別も、生き方も、真逆な二人だったが、

ツインソウルたる「片鱗」が、この可愛げのない

 

「自分の弱みは、絶対、人には見せない」

 

というポリシーだったことに、私は、少しばかり

先に、気付いていたのかも知れない。

 

案外、私の方が、Sよりも一枚上手の「食えない奴」

だったかもね!(爆)

 

ドンファンな下心を隠しつつも、ちょっと危なげな色気を

漂わせつつも、ギリギリ「青春群像の若き教師」のままで

留まって居てくれさえすれば・・・・。

 

鉄仮面で、何を考えているか解らん、おばちゃん事務も、

きっと、Sの不都合な真実を、そっとオブラートに包んで

それなりに、有能な右腕で居られたに違いないのだが・・・。

 

あの頃の私は、そう、切に願っていた。

 

そんな願いが、すぐに絶望に変わってしまうとも知らずに・・・。

 

 

 

 

 

 

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㉙

季節は、夏になっていた。

夏の連休に、みんなで、どこかへ遊びに行こうという

計画が上がっていた。

 

「どこがいいかな~」

「やっぱり、夏だし、海がいいんじゃない?」

「綺麗な海、みた~~~い!」

 

「ねえ、呼子とかどうかな?」

呼子?」

「烏賊が、めっちゃ美味しいよ~。」

Mの提案に、皆賛成して、車で分乗して出かける事

になった。

「まず、人数よね。

車何台いるか、割り振りも必要だし。」

「私たち14人と、M先輩と、所長でしょ・・・。」

 

「瑠璃さん、一緒に行きませんか?」

 

新人の女の子が、私を誘ってくれた。

 

「う~ん、子どもいるから、行けないわ。」

「え~、一緒に連れてきたらいいじゃないですか?」

「でも、うちの子も、私も、車弱いのよね~。」

「え~~そうなんですか・・・。」

「でも、窓全開で走れば、大丈夫じゃないですか?」

 

「ところで、お子さんって、いま、お幾つなんですか?」

「小4よ。」

「男の子ですか、それとも女の子?」

「男の子よ。」

「うわ~逢ってみた~~い。」

「連れてきてくださいよ~。」

「顔見たい~~~。」

「可愛いですか?」

「どうかな・・・写真ならあるけど・・・。」

「え~~~見せて~~~見せて~~~。」

 

女の子たちが、こぞって、小4の息子の写真に群がった。

 

「いや~~~ん、めっちゃイケメンじゃないですか~。」

「うわ~可愛い~~~エプロンしてる~。」

「お料理手伝ってくれるんですか?」

「ああ、それね、親子料理教室へ行った時の写真なのよ。」

「へ~いいな~。」

「私、若かったら、付き合いたい~~~。」

「あははは」

「じゃ、うちの息子が成人するまで、待っててください」

「やだ~おばちゃんになっちゃうじゃん。笑」

 

ひとしきり、盛り上がったのだが、私は、呼子へのドライブ

への参加は、見送った。

若いお兄さんお姉さんと、遊べるのは、いい機会だったかも

しれないが、お調子者の息子が、何か、やらかしては

申し訳ないからね・・・。

 

単身赴任している夫と、仕事をしている私。

 

きっと、遊びたい盛りの息子が、日ごろのうっぷんを

晴らすべく、大はしゃぎするのが、目に見えるようだった。

 

何時ものように、息子と二人だけの休日。

日ごろ出来ない家事を片付け、お昼もすませて、リビングで

ゆったりとしていたその時、電話のベルが鳴った。

 

ファックス電話の表示版は、「公衆電話」と表示されていた。

「公衆電話?」

不思議に思いつつ、私は、受話器を取った。

 

「はい ●●です。」

 

しかし、返答はない。

 

「もしもし、●●ですけど・・・。」

 

やはり、返答はない。

 

受話器に耳を澄ましてみると、遠くに若い人の歓声が聞こえた。

 

ザア~~という波の音も、かすかに漏れ聞こえてくる。

 

電話の主は、相変わらず、息を殺して黙っていたが、

私には、それが誰であるか、もう解っていた。

 

声には、ならなかったが、受話器の向こうの相手の、重苦しい

言うに言えない「辛さ」みたいな感情が、回線を通して

私に伝わってくる気がしていた。

 

私は、無言で、電話の相手と向き合っていた。

何が言いたいのだろう・・・。

何が、そんなに辛いのだろうか・・・・と。

 

ふいに、遠くから、電話の主を呼ぶような声がして

電話は、プツリと切れた。

向こうは、気付いただろうか・・・・。

私が、電話の相手が、誰だかわかっていたことを・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㉘

結局、Mは、Sの家族が来福中、ぬけぬけと家にまで

押しかけ、逢いに行っていた事が、解った。

しかも、黙っていればいいものを、Mは、その事実を会社で

しかも、新人達が居る前で、喋ってしまった。

 

若い新入生に、Sを取られまいと、釘を刺したかった

のかも知れないが、それは、あまりに愚かな行動だった。

 

会社の大人チームは、Mの大胆不敵な行動に、呆れ、もう

付ける薬は無いな・・・と諦めていた。

 

「子どもたち、二人とも可愛くて、思わず、だっこ

しちゃいました~。

私、あの子たちなら、お母さんになれるかな~って。」

 

(おいおい、あんた、絶対、奥さんにばれてるって・・・。)

 

そんな痛い言動をする先輩なのに、新人後輩達は、あまりに

大人で、切なくなってしまう。

 

「うわ~会いに行ったんですか~、いいな~、私たちも

逢いたかったな~。所長、今度来られたら、絶対、私たち

にも、逢わせてくださいね~。」

 

「う・・うん、解ったよ。」

 

Mにとっては、前門の虎(新人美女軍団)、校門の狼(信販の美人派遣)

って状態で、油断できないから、必死なんだろうけど・・・。

 

いつもは見えてないけど、頭の上に、奥様という、巨象が居るのよ。

大人しく見えても、一旦、暴れると、虎も、狼も、蹴散らされるのよ。

ましてや、白〇〇なんて、一気に踏みつぶされるわよ。

だてに、ドンファンの奥様業を、何年もやってる訳じゃないんだから。

 

何だか、Sの奥さんの事が、他人事とは思えなくて、私も、

一度お会いして、本当の気持ちは、どうなのか、

聞いてみたい衝動に駆られていた。

 

夫の不倫に悩む、人妻同士、案外気があったりしてね!

 

Sが、赴任してすぐ、私に、奥様が住んでいる家の住所と

連絡先を、渡そうとしたことが、あったのだが・・・。

 

「え、渡して大丈夫ですか? 何かあったら、すぐ連絡

入れちゃいますよ~。」と、冗談を言ったら、

「あ、それもそうだな・・・。」って

すぐに、引っ込めた事が、あったっけ・・・。

余計な事言わないで、貰っておけば良かったよ。

 

そうすれば、もうちょっと、堅牢な防波堤になれた

かも知れないのに・・・。

 

奥さんに会ったことで、自信がついたのか、Mの行動は

もはや、誰にも止められないほどの、暴走列車と

化していた。

 

お酒の席で、Sの横にべったりと寄り添い、

「私、肉付きがいいんで、抱き心地がいいんですよ~。」

って、体をくねらしてみたり・・・。

 

(何のアピールやねん・・・)

 

これには、さすがのSも、

「よくそんな事、ここで言うな~・・・引くわ・・・。」

と、驚いていたのだが・・・。

 

もう何でもアリなんやな・・・。

何で、そんなに必死なのか・・・。

 

私たち大人チームの前だけなら、私たちが、胸やけすればいいだけ

の話だったのだが・・・。

 

Mの顕示欲は、もはや、真夏の積乱雲の如く、ムクムクと膨れあがり

新人達はおろか、取引先のベンダーさん達にすら、遠慮しない

状態へと陥っていた。

 

ある展示会でのこと。

 

着物をまだ、着つけていなかったMは、

「所長~、着物着させてくださぁ~~~い。」と大声で

叫びながら、Sを探していた。

それを聞いていた、着つけのプロの女性が、

「何いってるの、はしたない!男の人に着つけてもらう

だなんて。」

「こっちいらっしゃい。着せてあげるわ。」

と、Mの手を引いて、お帳場へと連れて行こうとしたのだが

「私、所長がいいんですぅ~、所長に着せて貰いたいんですぅ。」

と言いながら、着物一式を持って、会場の真ん中辺りで、準備

していたSの元へ、走り寄って行った。

 

Sは、少々呆れながらも、「仕方ないな~、着せてあげるよ」

と言ったのだが、まだ、洋服のままで、襦袢すら着てないM

を見て、「おいおい、ここでストリップでもやる気か!?」

と、さすがにあきれ顔。

 

額に血管が浮かび上がって、怒り心頭な様子の、着付けの先生が

「こっち、いらっしゃい!」と

半ば、強引に、Mの手を引いて、お帳場へと連れ去っていった。

中で、着つけて行きなさい!と、着つけの先生に、再度説得

されていたようだったが、襦袢を着せて貰うやいなや、Mは

着物を、襦袢の上から引っかけて、すぐに、Sの元へと

走り寄ってきた。

 

「所長~、着させてくださ~~~い。」

「全く、しょうがねえなぁ~。」

そう言いながらも、まんざらでもない表情で、着付けを

請け負うS。

 

しかし、そこは会場のど真ん中。

 

SとMを真ん中にして、新人達も、取引先ベンダーさんも、

着つけの先生も、信販会社の女性たちも、取り巻くようにして

二人の、エロス漂う、安っぽいお不倫劇場を見せられているのだ。

 

明らかに軽蔑して睨む顔。

ニヤニヤ笑っている顔。

嫉妬で目の奥の炎が燃えている顔。

見てはいけないものを見せられて、目のやり場に困っている顔。

 

そんな十人十色の顔が、二人を遠巻きに見つめていた。

 

一体、何なんだ! コレは!

 

これから、お客様を迎えるにあたって、皆、緊張し、頑張ろうと

準備をしている最中だというのに・・・・。

 

何のために、私たちは、こんなものを見せられている訳????

 

(せめて、お不倫のイチャイチャタイムは、場外でやってくれ!)

 

当の二人は、そんな大勢の、声なき雑音など、気にする素振りは

全く無かったのだが・・・。

 

(このシチュエーション、痛快TVスカッとジャパンで、再現して

貰って、誰かに、神対応大岡裁きしてもらいたいわ~~~。)

 

残念ながら、その時には、誰も神対応できる人は、出現

しませんでした。

 

さすがの、冷徹おばはんの私も、呆れかえって、

嫌味の一つも言えませんでしたわ。

 

厚顔無恥に付ける薬など、どこにも売ってない!