そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㉚
連休明けの社内では、和気藹々と、呼子ドライブの話題が
盛り上がっていた。
「呼子の烏賊、美味しかったね~。」
「初めて食べたけど、感動したわ~。」
「ビーチボールも、めっちゃ盛り上がったね!」
「何か、みんな、めいっぱい、はしゃいじゃったよね~。」
「ほんと、楽しかった~~~。」
「でも、一番、楽しんでて、若いな~って思ったのって・・・。」
「所長!」
異口同音に、答える新人達。
「そうそう、服着たまんま、海へ走り出したんで、びっくり
したよね~。」
「他の男子も、ちょっとつられて、海入ってたね~。」
「なんかさ~、高校生みたい。」
「青春(あおはる)かよ~~~~。」
新人たちの、そんな話を、楽し気に聞いていた、大人たちだったが、
おもむろに、営業のおばちゃんが、一言。
「まるで、青春群像みたいだったわよ!」
「若い教師と、その教え子みたいな・・・・。」
「え~っ、一緒に行ってたの?」
思わず、その事実に、びっくりした私。
「あなたも、来ればよかったのよ~。」
「そうね、次回があれば行くわ。」
そんな気もないくせに、一応忖度してみた。
「ところで、所長、皆が浜辺で、ビーチボールしていた時
誰かに、電話してませんでしたか?」
「誰に、電話してたんですか?」
「う・・・うん、ちょっとね・・・。」
Sは、急に、思わぬことを聞かれて、答えを濁した。
まさか、公衆電話で、電話を掛けている自分の姿を、
他人に見られていたとは、思わなかったのだろう。
「あ~~~、さては、ご家族が恋しくなって電話
してたんでしょ~。」
「まあ・・・・ね。」
私は、新人たちの、急な質問にも、Sのしどろもどろの
答えにも、顔色一つ変えずに、平静を装った。
やはり、Sだったか・・・・と、心の中では、「正解」
のピンポンが、鳴ってはいたのだが・・・。
Sが、私に、無言電話を掛けてた・・・なんて事実は、
新人達にも、会社の大人チームにも、ましてや、
当の、私本人には、絶対、知られたくない事だろうと、
思ったからだった。
どんな動機で、どんな思いで、電話を掛けていたとしても、
自分の弱みは、絶対、人には見せたくない!
これは、残念ながら、ドンファンなSと、冷徹おばちゃんの
私の、唯一の共通点だったかも知れない。
年齢も、性別も、生き方も、真逆な二人だったが、
ツインソウルたる「片鱗」が、この可愛げのない
「自分の弱みは、絶対、人には見せない」
というポリシーだったことに、私は、少しばかり
先に、気付いていたのかも知れない。
案外、私の方が、Sよりも一枚上手の「食えない奴」
だったかもね!(爆)
ドンファンな下心を隠しつつも、ちょっと危なげな色気を
漂わせつつも、ギリギリ「青春群像の若き教師」のままで
留まって居てくれさえすれば・・・・。
鉄仮面で、何を考えているか解らん、おばちゃん事務も、
きっと、Sの不都合な真実を、そっとオブラートに包んで
それなりに、有能な右腕で居られたに違いないのだが・・・。
あの頃の私は、そう、切に願っていた。
そんな願いが、すぐに絶望に変わってしまうとも知らずに・・・。