小さき森を愛する花  瑠璃唐草物語

瑠璃唐草の別名はネモフィラ。ギリシャ語のNemophila は、ギリシャ語の 「nemos(小さな森) + phileo(愛する)」が 語源とされています。そんな愛らしくも健気な花のように生きていきたいと思います。

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㉝

ある日の午後、私は、Sから呼び出された。

 

「ちょっと瑠璃さん、入り口のドアストッパーなんだけど

どのタイプにするか決めたいんで、ちょっと見てくれる?」

 

「え、ドアストッパーですか? 所長の使い安いタイプで

決めて頂いていいと思いますけど・・・。」

 

「まあ、そう言わず、ちょっと、こっちに来て、実際に

見てみてよ。」

 

私は、Sの後について、入り口のドアの外側に立った。

 

「やっぱりさ、この一本足タイプだとさ、荷物を運ぶとき

ドアの重さを支えきれずに、動く可能性があるから、もっと

しっかりした、こっちのタイプがいいよね?」

Sが、しゃがみ込んで、ドアの前に座って、カタログを見て

いたので、私も、同じ体制でしゃがみ、カタログを除き込んだ。

 

「そうですね、そちらの方が、安定感があると思います。」

「じゃ、こっちにするか・・。」

 

わざわざ、私に見せるほどの事でもないのに・・・と思いつつ

立ち上がろうとしたのだが、それを遮るかのように、

Sは話し続けた。

 

「ところでさ・・・・まあ、色々噂というか、色んな誤解が

あるんだと思うんだけどさ・・・・。」

 

その一言で、私は、例の一件だと察した。

 

「何のことでしょうか?」

 

「何か、俺がさ~、色々良からぬことをしているって噂が

立っててさ~。」

 

「へぇ~そうなんですか~、噂なんですか~。」

「火のないところに、煙は立たずって言いますけどねぇ~。」

 

「いや、誰かが、火のない所で、煙モクモク出している

みたいなんだよね~。」

「あら、誰でしょ?」

「いや、他に居ないでしょ?」

 

「私、別に、煙モクモク焚いてませんよ。むしろ煙が

小火にならないように、火消ししている積りですけど。」

 

「噂に尾ひれが、ついちゃってさ、大げさになって、困ってる

んだよ。」

「あちこちの所長から、怒られるし、部長には睨まれるし。」

 

「尾ひれ? 尾ひれの部分で、どこでしょうか?」

「所長が、信販会社の既婚女性を口説いて、意に添わなかった

から、「辞めさせる」と脅して、ご本人がトイレで、泣いて

しまわれた・・・って部分でしょうか?」

 

「これ、尾ひれでなくて、事実ですよね?」

 

「いや、食事には誘ったよ。確かに・・・。でも実際デートも

した訳じゃないんだし、色々詮索されるのはさ・・・。」

 

「所長、事の重大さ解ってます?」

 

「デート云々じゃなくて、嫌がる女性に、職権乱用して

自分の思い通りにしなければ、辞めさせるって言っている

んですよ。」

 

「これ、立派なセクハラで、パワハラですから!」

 

「きちんと、相手に謝って和解しないと、訴えられることも

あるし、既に、信販会社の上司に、事情が知れ渡っている

かも知れないんですよ。信販会社の方から、正式に通知が

来たら、社長にも知れてしまうかも知れないんですよ。

そうならないように、所長さんたちが、ストップかけて

くれようとしているんです。」

 

「いや、それが余計なことじゃないか~。」

「はぁ~!?」

 

私たちは、座った姿勢から、いつの間にか立ち上がり、

腕を組んだままで、お互いを睨み合って立っていた。

 

不穏な空気に、部屋の中で作業していた新人達が、いつの間にか

こちらを、チラチラと盗み見していた。

 

「痴話喧嘩?」

 

そんな声が、聞こえた。

 

(冗談じゃないぜ~~~~。何が痴話喧嘩だ!)

 

私は、急にバカらしくなり、踵を返した。

 

「とにかく、自重してくだいよ。」

「私は、もう知りませんからね!」

 

年下とは言え、パートのおばちゃんが、上司に正々堂々

楯突いた瞬間だった。