そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㉝
ある日の午後、私は、Sから呼び出された。
「ちょっと瑠璃さん、入り口のドアストッパーなんだけど
どのタイプにするか決めたいんで、ちょっと見てくれる?」
「え、ドアストッパーですか? 所長の使い安いタイプで
決めて頂いていいと思いますけど・・・。」
「まあ、そう言わず、ちょっと、こっちに来て、実際に
見てみてよ。」
私は、Sの後について、入り口のドアの外側に立った。
「やっぱりさ、この一本足タイプだとさ、荷物を運ぶとき
ドアの重さを支えきれずに、動く可能性があるから、もっと
しっかりした、こっちのタイプがいいよね?」
Sが、しゃがみ込んで、ドアの前に座って、カタログを見て
いたので、私も、同じ体制でしゃがみ、カタログを除き込んだ。
「そうですね、そちらの方が、安定感があると思います。」
「じゃ、こっちにするか・・。」
わざわざ、私に見せるほどの事でもないのに・・・と思いつつ
立ち上がろうとしたのだが、それを遮るかのように、
Sは話し続けた。
「ところでさ・・・・まあ、色々噂というか、色んな誤解が
あるんだと思うんだけどさ・・・・。」
その一言で、私は、例の一件だと察した。
「何のことでしょうか?」
「何か、俺がさ~、色々良からぬことをしているって噂が
立っててさ~。」
「へぇ~そうなんですか~、噂なんですか~。」
「火のないところに、煙は立たずって言いますけどねぇ~。」
「いや、誰かが、火のない所で、煙モクモク出している
みたいなんだよね~。」
「あら、誰でしょ?」
「いや、他に居ないでしょ?」
「私、別に、煙モクモク焚いてませんよ。むしろ煙が
小火にならないように、火消ししている積りですけど。」
「噂に尾ひれが、ついちゃってさ、大げさになって、困ってる
んだよ。」
「あちこちの所長から、怒られるし、部長には睨まれるし。」
「尾ひれ? 尾ひれの部分で、どこでしょうか?」
「所長が、信販会社の既婚女性を口説いて、意に添わなかった
から、「辞めさせる」と脅して、ご本人がトイレで、泣いて
しまわれた・・・って部分でしょうか?」
「これ、尾ひれでなくて、事実ですよね?」
「いや、食事には誘ったよ。確かに・・・。でも実際デートも
した訳じゃないんだし、色々詮索されるのはさ・・・。」
「所長、事の重大さ解ってます?」
「デート云々じゃなくて、嫌がる女性に、職権乱用して
自分の思い通りにしなければ、辞めさせるって言っている
んですよ。」
「これ、立派なセクハラで、パワハラですから!」
「きちんと、相手に謝って和解しないと、訴えられることも
あるし、既に、信販会社の上司に、事情が知れ渡っている
かも知れないんですよ。信販会社の方から、正式に通知が
来たら、社長にも知れてしまうかも知れないんですよ。
そうならないように、所長さんたちが、ストップかけて
くれようとしているんです。」
「いや、それが余計なことじゃないか~。」
「はぁ~!?」
私たちは、座った姿勢から、いつの間にか立ち上がり、
腕を組んだままで、お互いを睨み合って立っていた。
不穏な空気に、部屋の中で作業していた新人達が、いつの間にか
こちらを、チラチラと盗み見していた。
「痴話喧嘩?」
そんな声が、聞こえた。
(冗談じゃないぜ~~~~。何が痴話喧嘩だ!)
私は、急にバカらしくなり、踵を返した。
「とにかく、自重してくだいよ。」
「私は、もう知りませんからね!」
年下とは言え、パートのおばちゃんが、上司に正々堂々
楯突いた瞬間だった。