小さき森を愛する花  瑠璃唐草物語

瑠璃唐草の別名はネモフィラ。ギリシャ語のNemophila は、ギリシャ語の 「nemos(小さな森) + phileo(愛する)」が 語源とされています。そんな愛らしくも健気な花のように生きていきたいと思います。

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㊸

事務の求人を打っても、人が集まらない。

せっかく求人に応募してくれた、貴重な人材にも

Sが、自分の好みを反映させるから、決められない。

そんな膠着状態が、続いていた。

 

2班分の事務処理を、一人で行うため、必然的に私の

残業時間だけが増えていく。

仕事だけなら、別に嫌いではないから、何とか

ガンバれるのだが・・・。

 

私の帰りが、遅い事で、好ましくない状況が

家庭の中に、生まれつつあった。

息子の同級生の男の子数人が、私の留守中に、家に入り込み

勝手し放題になっていたのだ。

もちろん、少々、部屋の中が汚れる程度なら、私も

目を瞑るのだが・・・。

 

家に、遊びに来る子たちは、いわゆる「家に自分の居場所」

が無い子が多く、正直、素行が、あまり良くなかったのだ。

部屋を飛び出し、マンションの廊下や、エントランスで、

走り回り、住人に迷惑をかけることもあり、

私が、家に帰るなり、近隣の方から、クレームを

入れられることも、珍しくなくなっていた。

 

会社でも、ストレス多いのに、帰ってからも、また

近隣住民に気を遣う日々。

 

夫は、単身赴任なので、夫にも頼れない・・・。

 

それでも、息子も、やんちゃで、遊びに来る子達と、

同じように暴れているのなら、致し方ない部分はある。

しかし、息子は、大人しく、その大人しさを利用

されている事に、私は、とても危機感を抱いていた。

 

当時流行っていたゲーム機を、遊びに来た子たちに

隠され、その子たちの間で、ボロボロになるまで

使いまわされていたのに、息子は、彼らの事を

疑ったり、責めたりできなかったのだ。

 

(実際、学校でも、問題児だった、その子たちは、

のちに、学級崩壊を起こさせる「とんでもない

事件」を引き起こすことになるのだが・・・。)

 

仕事は、大変だったものの、新人さんたちに囲まれて

やっと、自分を必要としてくれる人と、仕事が

出来るようになっていた私は、正直、仕事を

辞めることを、真剣に悩んだ。

 

しかし、私が、あの会社にいる限り、早く帰ってくる

ことは出来ないのだ。

それは、問題児たちを、そのまま受け入れた状態で

放置することを意味する。

 

私は、決断した。

 

「会社を辞めよう・・・」と。

 

まずは、Y所長に、相談した。

 

子どもの一件を話し、辞めたくはないけれど、

事情が事情だけに、辞めさせて下さいとお願い

したのだった。

 

「いや、確かにお子さんの事、心配だけど・・・、

もう一人事務の人が入ったら、定時で帰れるように

なると思うし、もう少し、様子を見てくれないかな。」

 

「でも、求人打っても、なかなか人が集まりませんし

来てくれた人も、S所長が、OKを出さないので、全く

決まる気配がありません。」

 

「求人は、もう少し、別の媒体にも出すし、派遣会社にも

声をかけてみるから、考え直してくれないか?」

 

「求人については、もう、随分長い事、お願いしていましたが

膠着状態で、多分、S所長は、私が居る限り、新しい人を

入れるつもりが無いんだと思います。」

 

「まあ、確かに、瑠璃さんみたいに、しっかりと仕事を

こなしてくれる人が、なかなか居ないのも事実だけど。」

 

「案外、無理難題言って、使い倒して、私が、音を上げる

のを、待っているのかもしれませんよ。(苦笑)

煩いオバハンを、追い出して、若い美人事務二人体制に

したいのかも・・・。」

 

「いやいや、それは無いって・・・。絶対、瑠璃さんが

辞めるっていったら、S所長、慌てて引き留めるから!」

 

私の決意が、変わらないのを知って、Y所長は、渋々

Sへの退職願提出を認めてくれた。

 

Y所長は、何だかんだ言っても、S所長が、私の

退職の意思を、上手い事言って翻してくれると、

心のどこかで期待していたのだろう・・・。

 

「S所長、すみません、ちょっとお時間

よろしいでしょうか?」

 

「え、何?」

「ちょっとご相談がありまして・・・。」

「あ、じゃ、ちょっと向こうで話そうか。」

 

Sと私は、廊下の突き当りにある喫煙休憩所で

向かい合って座った。

 

「実は、ちょっと家庭の事情で、会社を退職させて

頂きたく、次の方との引継ぎもありますので

退職の時期のご相談をしたいのですが・・・。」

 

「ふ~ん、そうなんだ。まあ、事情もあるんだ

ろうし、君の事だから、もう、どうせ決めているんでしょ?

いいよ、別に、時期はいつでも。」

 

「じゃ、仕事あるから戻るわ。」

 

あまりのそっけない言葉に、さすがの私も、あっけに

とられた。

 

(おいおい、いくら目の上のタンコブのオババだって

一応、形なりとも、引き留めるとか、ご苦労様の一言

ぐらいあっても、バチは当たらんだろうがっ!)

 

しかし、まあ、これで私も、心置きなく辞める算段が

できると、開き直った。

 

「Y所長、話してきましたよ。」

「どうだった?引き留められただろう?」

「いいえ~~、いつ辞めても良いって、

気持ちよく、ご了解いただけました~。」(*'▽')

 

「な・・何だって! そんなバカな・・・。」

「そんな筈あるもんか!」

「いや、きっとS所長、パニクって、何が何だか

解らなくなってるんだ・・・きっと・・。」

 

「そんな事ありませんでしたよ。至極冷静で。

至極冷淡で。」(苦笑)

 

「やっぱり、私の事、邪魔だったんですね~。

これで、心置きなく、辞められますわ~。」

 

人一倍、仕事には励んできたという自負があった

私は、Sの、あまりに「そっけない態度」に、

少々腹は立ったものの、もはやこれまで・・・と

腹をくくったのだった。