小さき森を愛する花  瑠璃唐草物語

瑠璃唐草の別名はネモフィラ。ギリシャ語のNemophila は、ギリシャ語の 「nemos(小さな森) + phileo(愛する)」が 語源とされています。そんな愛らしくも健気な花のように生きていきたいと思います。

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その⑨

Sが、私の質問に答えるべく、私のPCの側に寄って

来た時に、それは起きた。

 

 

相変わらず、パーソナルエリア、ガン無視で、顔を

横向けてしまえば、うっかり頭をぶつけてしまうぐらいの

距離感で、「え~っと、確か、シフトキーを押しながら、

これを押したら、出てくるんじゃなかったっけ・・・。」

 

そう言いながら、実際にキーを押すS。

 

私は、気付かれない程度に、体を反対側へずらした。

まだ若干、汗ばむ季節だったせいか、Sの体臭を

微かに感じてしまった。

 

普通、35過ぎると、男の人って、加齢臭が漂い始める

のがセオリーだと思うのだが・・・。

意外にも、Sの体臭が、十代から二十代にかけての

若い子独特の匂いがすることに、驚いた。

若いのは、見た目だけじゃなかったんだ・・・。

妙に感心する私。

 

アンチエイジングの秘訣は、やっぱり、女性遍歴の賜物

なんでしょうかね~。」

なんて、嫌味な事を、心の中で呟く私。

 

顕在意識の私は、Sの事を、どこか軽蔑し、冷ややかな目で

見ていたのだ。

 

それなのに・・・・それなのに・・・・。

 

どうして・・・。

 

一体、何が起きてしまったというのだろう・・・・。

 

 

Sが、近寄り、彼の体臭を、うっかり嗅いでしまった途端、

私の体は、急にガクガクと震えだしたではないか!

 

 

「えっ!?」

 

 

私は、自分の体に起こっている変化に、狼狽えた。

 

 

「何で・・・何で・・・何が起こったの!?」

 

 

震えは、止まるどころか、ますます激しくなり、

誤魔化す事すら、難しくなってきた。

 

「どしたの? 寒いんだったらクーラー止めても

いいんだけど?」

 

「いえ、大丈夫です。 風邪引いたのかもしれません。」

 

私は、やっとのことで、そう答えた。

 

Sは、訝し気に私の事を見たが、直ぐに、踵を返して、自分の

席へと戻って行った。

 

何が起こったか、混乱している私だったが、とにかく、この

震えを止めなければと、必死で、足を踏ん張り、入力を

続けようとした。

 

しかし、足に力は入らないわ、指は震えるわ、頭はパニックに

なるわと、もう、自分自身で制御ができない状態となってしまった。

 

とうとう、しまいには、悲しくも無いのに、涙が溢れて、声を押し殺して

号泣状態へと陥ってしまった。

 

その上、丹田の辺りから、何かが、渦を巻きながら、私の体を押し包む

ような気がしてきて、自分の意識が遠のくのでは・・・という

危機感に襲われた。

 

恐らく、後姿でも、ガクガク震えているのは、解ったのだろう。

Sが、また近づいてきた。

声を掛けようとしたようだったが、私が、声を出さずに

号泣しているのに気づいたのだろう。

 

そのまま、そっと、その場を離れ、自分の席へ戻ったようだった。

 

いきなり声を殺して号泣する、意味不明な、おばちゃんを見て、

さすがのSも、掛ける言葉がなかったのだろう・・・。

 

「俺、何か悪い事したか?」

 

彼は彼なりに、理由を探していたかも知れない。

 

やっとのことで、震えと号泣をナダメすかし、私は、PC

から離れて、自分の机に戻った。

 

 

すると、今度は、Sの様子が変だった。

 

 

自分の席に座ってはいたものの、彼は、酷く落ち着かない

様子で、ソワソワし、しきりに、臍の辺りを気にしていた。

 

やっと自分を取り戻した私は、「どうかしたんですか?」

と、今度はSに、尋ね返した。

 

「いや・・・・何でも・・・何でもないよ。」

「俺、そろそろ帰るわ・・・。」

 

「そ・・・そうですか、お疲れさまでした。」

私が、きちんと施錠して帰りますので・・・。」

 

「解った、じゃお願いするわ。」

 

そう言い残すと、Sは、上着を羽織り、早々に事務所を

立ち去った。

 

残された私は、「今起こった事」が、一体何だったのか?

少しばかり、気になりながらも、仕事を片付け、事務所を

閉めたのだった。

 

解っていたことは、あの号泣した感情が、決して私の顕在意識

ではないこと、だけだった。

 

 

そして、丹田の辺りから、渦のように出てきた状態と、

似た体験を既に、以前にも経験したことがあることを、思い出したのだった。