小さき森を愛する花  瑠璃唐草物語

瑠璃唐草の別名はネモフィラ。ギリシャ語のNemophila は、ギリシャ語の 「nemos(小さな森) + phileo(愛する)」が 語源とされています。そんな愛らしくも健気な花のように生きていきたいと思います。

そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㉔

まだ、Sが赴任する前、少人数で、展示会を切り盛りせざるを

得ない状態だった頃。

 

会社の一員では無いのに、社員さん以上に、気を配ってくれて

気働きのできる、素晴らしい女性が、居た。

 

彼女は、所謂、信販会社からの、派遣さんだった。

通常、高額商品を取り扱う展示会などでは、概ね、彼女たちの

仕事は、信販受付に座ったまま待機し、お客さまが、手続きに

来られない限りは、ただ、ぼんやりと時を過ごすか、もしくは

本を読んだり、同僚と喋ったりして、時間を過ごすのが、

一般的な仕事のやり方だった。

 

しかし、彼女は、全く、違っていた。

 

頼まれなくても、お客様を誘導し、お茶を出し、お客様担当に

繋いでくれるし、何か人手が足りないと見るや、すぐに、その場に

駆けつけて、対応してくれる、ホントに、頼もしい人材だったのだ。

 

「Tさん、いつもありがとうね! Tさんのお陰で、毎回、何とか

展示会が回るわ~。」

「何言ってるのよ~、これぐらい何でも無いわよ~。

ただ、座って待ってるのって、私の性分に合わないのよ~。

動いてないと死ぬわ~~~だって、回遊魚だも~~~ん。」

 

私に気を使わせないように、ユーモアで返してくれる彼女は、

大らかで、開けっぴろげで、溌剌とした、博多っ子。

芸能人で言うと、田中律子さんみたいなタイプだった。

 

何度、このTさんが、「自分の会社の同僚だったら、良かったのに。」

と、思ったことだろうか・・・。

同年代だったこともあり、彼女には、特別親しみを感じるように

なった。

高校生になる、彼女の息子様さんとの、やりとりには、毎回

笑わせてもらったっけ・・・。

思春期の男の子って、特別大変だと思うけど、彼女は、あっけらかんと

明るいエロ話も、躊躇しないほど、お互い、信頼関係が築けていた

ようだった。

 

そんな明るく、屈託のない女性が、よもや、Sの出現で、あんなにも

豹変してしまうとは・・・・。

 

彼女の、変わりゆく姿、言動を見るたび、Sの罪深さを、改めて

思い知らされるのだ。

 

「今度来た、所長さん、面白いわね! 話してると、すごく話題が

豊富で、飽きないわ。」

「そ・・・そうね、確かに、話は、面白いと思うわ。

仕事もできるしね・・・。唯一、悪い癖が発揮されなければ

本当に、ありがたい人なんだけどね・・・・。」

 

「え~~~ナニナニ? どんな悪い癖よ? 教えて~~~。」

「うん・・・そうね・・・また、今度・・・。」

「やだ、気になるじゃないの~~~。」

 

「当ててみようか!?  女性関係でしょ?」

「まあ・・・そんなような・・・。」

「やっぱりね~~~、モテル感じはするな~って

思ったのよ。」

 

「私みたいな、おばちゃんにまで、綺麗だね~とか、おべっか

使っちゃってさ~。 普通、若い子とか、独身の子とかになら

そういうリップサービスも、珍しくないけど、アラフォーの

私にも、気を使ってくれるあたり、かなり女性の扱いに

慣れてるな~~~って思ってさ。」

 

「Tさん、実年齢より、若く見えるし、実際綺麗だもの。

それは、おべっかじゃなくて、単なる感想だと思うよ。」

「やだもう~~~瑠璃さんたら、乗せるの上手いわね~。」

「また、仕事、ガンガン張り切っちゃうわよ~。」

 

そう、こんな軽口を叩ける間は、まだ良かったのだ。

私は、賢明なTさんのことだから、Sのドンファンぶりも

笑いのネタとして、受け流してくれると、信じて疑わなかった。

しかし、彼女の言動は、日を追う度、危なっかしいものと

なっていくのだった。