そろそろ書くべき時なのでしょうかね・・・。 ツインソウル その㉔
まだ、Sが赴任する前、少人数で、展示会を切り盛りせざるを
得ない状態だった頃。
会社の一員では無いのに、社員さん以上に、気を配ってくれて
気働きのできる、素晴らしい女性が、居た。
通常、高額商品を取り扱う展示会などでは、概ね、彼女たちの
仕事は、信販受付に座ったまま待機し、お客さまが、手続きに
来られない限りは、ただ、ぼんやりと時を過ごすか、もしくは
本を読んだり、同僚と喋ったりして、時間を過ごすのが、
一般的な仕事のやり方だった。
しかし、彼女は、全く、違っていた。
頼まれなくても、お客様を誘導し、お茶を出し、お客様担当に
繋いでくれるし、何か人手が足りないと見るや、すぐに、その場に
駆けつけて、対応してくれる、ホントに、頼もしい人材だったのだ。
「Tさん、いつもありがとうね! Tさんのお陰で、毎回、何とか
展示会が回るわ~。」
「何言ってるのよ~、これぐらい何でも無いわよ~。
ただ、座って待ってるのって、私の性分に合わないのよ~。
動いてないと死ぬわ~~~だって、回遊魚だも~~~ん。」
私に気を使わせないように、ユーモアで返してくれる彼女は、
大らかで、開けっぴろげで、溌剌とした、博多っ子。
芸能人で言うと、田中律子さんみたいなタイプだった。
何度、このTさんが、「自分の会社の同僚だったら、良かったのに。」
と、思ったことだろうか・・・。
同年代だったこともあり、彼女には、特別親しみを感じるように
なった。
高校生になる、彼女の息子様さんとの、やりとりには、毎回
笑わせてもらったっけ・・・。
思春期の男の子って、特別大変だと思うけど、彼女は、あっけらかんと
明るいエロ話も、躊躇しないほど、お互い、信頼関係が築けていた
ようだった。
そんな明るく、屈託のない女性が、よもや、Sの出現で、あんなにも
豹変してしまうとは・・・・。
彼女の、変わりゆく姿、言動を見るたび、Sの罪深さを、改めて
思い知らされるのだ。
「今度来た、所長さん、面白いわね! 話してると、すごく話題が
豊富で、飽きないわ。」
「そ・・・そうね、確かに、話は、面白いと思うわ。
仕事もできるしね・・・。唯一、悪い癖が発揮されなければ
本当に、ありがたい人なんだけどね・・・・。」
「え~~~ナニナニ? どんな悪い癖よ? 教えて~~~。」
「うん・・・そうね・・・また、今度・・・。」
「やだ、気になるじゃないの~~~。」
「当ててみようか!? 女性関係でしょ?」
「まあ・・・そんなような・・・。」
「やっぱりね~~~、モテル感じはするな~って
思ったのよ。」
「私みたいな、おばちゃんにまで、綺麗だね~とか、おべっか
使っちゃってさ~。 普通、若い子とか、独身の子とかになら
そういうリップサービスも、珍しくないけど、アラフォーの
私にも、気を使ってくれるあたり、かなり女性の扱いに
慣れてるな~~~って思ってさ。」
「Tさん、実年齢より、若く見えるし、実際綺麗だもの。
それは、おべっかじゃなくて、単なる感想だと思うよ。」
「やだもう~~~瑠璃さんたら、乗せるの上手いわね~。」
「また、仕事、ガンガン張り切っちゃうわよ~。」
そう、こんな軽口を叩ける間は、まだ良かったのだ。
私は、賢明なTさんのことだから、Sのドンファンぶりも
笑いのネタとして、受け流してくれると、信じて疑わなかった。
しかし、彼女の言動は、日を追う度、危なっかしいものと
なっていくのだった。